講演情報
[U16-02]Lバンド合成開口レーダ衛星による地球観測科学★招待講演
*古屋 正人1 (1.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)
キーワード:
合成開口レーダー、地殻・地盤変動、雪氷圏、電離圏、リモートセンシング
衛星SARは5m未満の空間分解能でマイクロ波に対する地表の(反射/散乱)強度画像を昼夜天候関係なく定期的に得ることができる.SAR画像は海上風推定,水害等による浸水域マッピング,地滑りや火山活動等に伴う大規模な地形変状検出に利用されてきた.さらに, SAR画像の位相データを使った干渉処理(interferometry)により観測機器を設置せずに地表変位を「面的」に検出することも可能である(Massonnet et al 1993; Goldstein et al., 1993).地震の断層直上やクレバス等の観測機器が設置困難な場の表面変位が画像データの解析処理で得られることとなり,以降Interferometric SAR(InSAR)として新たな測地学的リモートセンシングとして一気に知れ渡った.ESAのC-band SARであるERS-1に続いて,日本のNASDA(現JAXA)は1992年からL-band (1.2GHz) SARのJERS-1(ふよう1号)を打ち上げ,運用し,JERS-1データによる日本国内の地殻変動検出は植生に覆われた地域でのL-band InSARの有用性と優位性を世界に知らしめた(例えばOzawa et al. 1997).
「地震」「火山」活動に伴う地殻変動や「氷河氷床」の流速分布の検出手法はほぼ確立されている.地殻変動マップは防災上も有用で,「ALOS(だいち)」打ち上げに合わせてJAXAの呼びかけでテーマ別の防災利用実証実験が行われた.現在も災害時の緊急観測立案のためのWGがあり,「地震」については国土地理院,「火山」については気象庁に事務局がある.一般にInSARは画像内で一定以上の変位勾配を持つ局在化した地表変位ほど検出しやすい.対流圏・電離圏の効果や衛星軌道の誤差は見かけの変位を生み,長波長で変位速度の小さい現象ほど検出が難しい.しかし観測頻度の向上とデータ蓄積に基づいた「時系列解析」が可能となって,地殻・地盤変動の観測ターゲットは(海外も含めた断層近傍の歪み集中など)経年変化の検出に移っている.国内の定常的地殻変動監視は国土地理院が行っているほか,European Ground Motion Service (EGMS)はSentinel-1データに基づいてヨーロッパ域の地表変位をルーチン的に検出,公開している.氷河氷床分野では,NASAの Making Earth System Data Records for Use in Research Environments (MEaSUREs)の一部として,南極やグリーンランド全体の年間平均速度分布のような高次データが「標準プロダクト」として提供・公開されている.
InSARの地球環境科学への近年の応用として,土壌有機炭素量の貯蔵庫とされる永久凍土や泥炭地の上下変動検出が挙げられる.有機炭素の挙動の定量化が究極の狙いであり,著者も最近は凍土帯の火災跡地の地盤変動に注目している.徐々に進行する温暖化による凍土融解よりも火災跡で突発的に開始する沈降は遥かに大きい.また火災後の20-30年で進行する凍土回復に伴う隆起も検出している.L-bandのSARは地殻・地盤変動検出にとって強力であると同時に,電離層への感度の高さも特長で,変位検出にはノイズ源だが同時にユニークな電離層観測手段でもある.また,著者らは海上豪雨の分布をL-band の偏波SARで検出できることを最近確認し,定量化を目指している.以上のようにL-band のSARは「実利用」用途の「防災」「災害監視」に留まらず,地球惑星科学の広い分野で「先端的科学利用」が可能で,今後も継続されるべきミッションである.日本はJERS-1に始まり2006年以降のPALSARシリーズとL-band SARを運用し続けてきた唯一の国だが,それでも現状の課題や将来への不安はある.
大学関係者がJAXAのSARデータに比較的容易にアクセスできるようになったのは2006年以降で,JAXAと東大地震研の共同研究契約の元でPIXELと称するコンソーシアムの設立がきっかけである(古屋ほか2025;小澤・古屋2025).データの注文と地震研での保存と公開をコアメンバーとアルバイトの大学院生が行い,定期的なソフトウェア講習会や研究集会を実施してきた結果,ALOSシリーズのSARデータを使った卒論,修論,博論が数多く提出され,PIXELの枠組みは現在も続いている.しかし規模が大きくなって,コアメンバーの負担も増えており,このやり方が持続可能かどうかは疑わしく不安でもある.一方で,20年以上前にはALOSと同様のデータ配布方針をとっていたESAはコペルニクス計画のもとSentinel-1データをオープンフリーに変革し,著者も大いにその恩恵に与っている.また嘗ては海外研究者から垂涎の目で見られていたL-band SARデータはNASA/ISROのNISARも取得するようになり,オープンフリーで公開されている.科学成果の最大化を考えればオープンフリーが良いに違いないが,JAXAのALOSシリーズデータは部分公開に留まっているし,PIXELも基本的に国内研究者限定である.
日本のPALSARシリーズが米国のLandsatシリーズのような役割を果たせないものだろうか.
「地震」「火山」活動に伴う地殻変動や「氷河氷床」の流速分布の検出手法はほぼ確立されている.地殻変動マップは防災上も有用で,「ALOS(だいち)」打ち上げに合わせてJAXAの呼びかけでテーマ別の防災利用実証実験が行われた.現在も災害時の緊急観測立案のためのWGがあり,「地震」については国土地理院,「火山」については気象庁に事務局がある.一般にInSARは画像内で一定以上の変位勾配を持つ局在化した地表変位ほど検出しやすい.対流圏・電離圏の効果や衛星軌道の誤差は見かけの変位を生み,長波長で変位速度の小さい現象ほど検出が難しい.しかし観測頻度の向上とデータ蓄積に基づいた「時系列解析」が可能となって,地殻・地盤変動の観測ターゲットは(海外も含めた断層近傍の歪み集中など)経年変化の検出に移っている.国内の定常的地殻変動監視は国土地理院が行っているほか,European Ground Motion Service (EGMS)はSentinel-1データに基づいてヨーロッパ域の地表変位をルーチン的に検出,公開している.氷河氷床分野では,NASAの Making Earth System Data Records for Use in Research Environments (MEaSUREs)の一部として,南極やグリーンランド全体の年間平均速度分布のような高次データが「標準プロダクト」として提供・公開されている.
InSARの地球環境科学への近年の応用として,土壌有機炭素量の貯蔵庫とされる永久凍土や泥炭地の上下変動検出が挙げられる.有機炭素の挙動の定量化が究極の狙いであり,著者も最近は凍土帯の火災跡地の地盤変動に注目している.徐々に進行する温暖化による凍土融解よりも火災跡で突発的に開始する沈降は遥かに大きい.また火災後の20-30年で進行する凍土回復に伴う隆起も検出している.L-bandのSARは地殻・地盤変動検出にとって強力であると同時に,電離層への感度の高さも特長で,変位検出にはノイズ源だが同時にユニークな電離層観測手段でもある.また,著者らは海上豪雨の分布をL-band の偏波SARで検出できることを最近確認し,定量化を目指している.以上のようにL-band のSARは「実利用」用途の「防災」「災害監視」に留まらず,地球惑星科学の広い分野で「先端的科学利用」が可能で,今後も継続されるべきミッションである.日本はJERS-1に始まり2006年以降のPALSARシリーズとL-band SARを運用し続けてきた唯一の国だが,それでも現状の課題や将来への不安はある.
大学関係者がJAXAのSARデータに比較的容易にアクセスできるようになったのは2006年以降で,JAXAと東大地震研の共同研究契約の元でPIXELと称するコンソーシアムの設立がきっかけである(古屋ほか2025;小澤・古屋2025).データの注文と地震研での保存と公開をコアメンバーとアルバイトの大学院生が行い,定期的なソフトウェア講習会や研究集会を実施してきた結果,ALOSシリーズのSARデータを使った卒論,修論,博論が数多く提出され,PIXELの枠組みは現在も続いている.しかし規模が大きくなって,コアメンバーの負担も増えており,このやり方が持続可能かどうかは疑わしく不安でもある.一方で,20年以上前にはALOSと同様のデータ配布方針をとっていたESAはコペルニクス計画のもとSentinel-1データをオープンフリーに変革し,著者も大いにその恩恵に与っている.また嘗ては海外研究者から垂涎の目で見られていたL-band SARデータはNASA/ISROのNISARも取得するようになり,オープンフリーで公開されている.科学成果の最大化を考えればオープンフリーが良いに違いないが,JAXAのALOSシリーズデータは部分公開に留まっているし,PIXELも基本的に国内研究者限定である.
日本のPALSARシリーズが米国のLandsatシリーズのような役割を果たせないものだろうか.
