講演情報

[U17-P04]還元的大気をもつ地球類似惑星における大気光化学―生態系結合モデル研究:メタンに基づくバイオシグネチャーへの示唆

*木村 友哉1、遠藤 美朗1、渡辺 泰士2、尾﨑 和海1 (1.東京科学大学、2.国立環境研究所)
これまでに発見されている太陽系外惑星の数は6000を超え、その中にはハビタブルゾーンに位置する岩石惑星も複数存在する。NASAのハビタブル・ワールズ・オブザーバトリー(HWO)計画をはじめとする次世代観測ミッションでは、太陽型星の周りの岩石惑星を対象とした大気分光観測による生命兆候(バイオシグネチャー)探査が主要な科学目標として掲げられている。しかしながら、惑星の大気組成は大気光化学や火成活動、水-岩石反応といった非生物的プロセスによっても影響を受けるため、生物活動に起因するシグナルを偽陽性と区別するためには、惑星の物理化学的環境と生物活動の相互作用を体系的かつ定量的に理解することが不可欠である。
系外惑星のバイオシグネチャーとしては酸素(O2)が挙げられるが、現在の地球の酸化的大気は酸素発生型光合成の進化によって形成されたものであり、そのような高度に複雑な生理化学機構がハビタブル惑星で普遍的あるとは限らない。また、地球においても酸化的大気の成立には長い時間を要したことが分かっている。さらに、生命起源や初期進化の観点からは還元的大気条件が重要である。したがって、初期地球に類似した還元的大気を有する惑星は、一般的なハビタブル惑星像を理解するうえで重要なモデルケースとなる。
本研究では、惑星内部からの脱ガス、表層での炭素循環、気候、大気光化学、および嫌気性微生物生態系を統合した理論モデルを構築し、還元的大気条件下において、生物活動が大気組成に及ぼす影響を定量的に評価することを目的とした。具体的には、ハビタブルゾーン内に存在する初期地球を想定した仮想的惑星を対象に、軌道長半径、脱ガス強度、中心星スペクトル(F,G,K 型星)および生態系構造を変化させた数値実験を行い、どのような大気組成が形成されるかを系統的に調査した。また、還元的大気においてバイオシグネチャー候補とされているメタン(CH4)について、どの様な条件で大気中に高濃度に蓄積するか、また偽陽性をどのように排除できるかについて調査した。
数値実験の結果、生物活動によってハビタブルゾーン全域にわたって大気中CH4濃度が上昇することが示された。一次生産は現在地球の海洋生態系の1%程度と極めて低い状況であっても、大気化学を介した非線形効果により高濃度が実現される。この生物起源CH4の増幅効果は、紫外線強度が弱くCH4の光化学的寿命が比較的長いK型星周りで特に顕著であり、観測に有利な条件となる。さらに、無生物条件ではハビタブルゾーン外縁部において一酸化炭素(CO)が蓄積し、いわゆるCO暴走状態に至りやすいのに対し、嫌気性微生物が存在する場合にはCOが効率的に消費されCH4へと変換されるため、CO暴走が抑制され、CO/CH4比が1を下回ることが分かった。
以上の結果を踏まえ、本研究は、「高濃度のCH4」と「低CO/CH4比(<1)」の共存が非生物的プロセスに起因する偽陽性を排除する有効なバイオシグネチャーとなると提案する。特に、ハビタブルゾーン外縁部に位置する惑星では、高濃度のCO2による紫外線遮蔽効果によってCH4が保護されるため、この指標はより顕著に現れる。本研究の結果は、将来のHWO等による大気観測において、軌道情報や環境コンテキスト(H2OやCO2の存在)と組み合わせたバイオシグネチャー解釈に向けた理論的基盤を提供する。