講演情報
[P5-7]大腸癌患者の医療AI受容性に関する倫理的・法的・社会的影響(ELSI)の構造分析
須田 竜一郎1, 和田 佐保3,4, 笠原 啓介2, 渡邉 大輔2, 飯川 雄2, 下田 辰也2, 大野 幸恵1, 青木 沙弥佳1,5, 片岡 雅章1, 柳澤 真司1, 海保 隆1 (1.国保直営総合病院君津中央病院外科, 2.国保直営総合病院君津中央病院リハビリテーション科, 3.国立がん研究センターがん対策研究所がん医療支援部, 4.国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科, 5.亀田総合病院消化器外科)
【背景】近年、医療分野における人工知能(AI)の活用が注目されているが、大腸癌治療のような精神的負担の大きい状況下において、患者がAI利用に抱く具体的期待や不安は十分に解明されておらず、データプライバシーやAIの信頼性、社会的受容性などの倫理的・法的・社会的影響(ELSI: Ethical, Legal, Social Implications)を包括的に評価する必要がある。【目的】大腸癌手術を経験した患者を対象に、医療AIに対する意識、期待、不安を調査し、患者中心AI支援システム開発への示唆を得る。【方法】大腸癌手術後患者92名に対し、AI利用に関する9項目の質問(5段階評価:理解度向上、信頼性、治療理解、相談しやすさ、治療選択不安、リハビリ提案、対話不安軽減、利用不安軽減、ストレス軽減)と自由記述を含むアンケート調査を実施した。スピアマン相関(p<0.05)と年齢・性別差、自由記述内容を分析。【結果】質問項目間の相関分析では、「AI対話による不安軽減」「AI利用による不安軽減」「AI利用によるストレス軽減」の間に強い正の相関(r=0.75〜0.82, p<0.001)が認められた。また、「AI説明による理解度向上」「AI医療情報の信頼性」「AI説明による治療理解度向上」の間にも強い正の相関(r=0.60〜0.65, p<0.001)が見られた。「AI治療選択への不安感」は、「AI利用による不安軽減」と有意な負の相関(r=-0.33, p<0.01)を示した。年齢別では50-59歳がAIによる精神的サポートに最も期待し、高齢者はAIによる理解度向上に期待する一方、相談のしやすさには不安を感じる傾向があった。性別では男性が全体的にAI利用に肯定的で、女性はリハビリ提案に期待する傾向が見られた。自由記述からは、術前後の説明や不安軽減への期待、AIの信頼性や責任所在といった法的課題、人間的触れ合いの欠如への懸念が示された。【考察】大腸癌患者は、情報提供や心理サポートに期待する一方、信頼性や人間的触れ合いの欠如への懸念も示された。特に、AIによる不安軽減効果は多面的であり、導入にあたっては患者特性に応じた個別化対応に加えELSI に基づく設計が不可欠と考えられ、患者中心の視点に立ったAI医療システムの開発と実装が求められる。