講演情報

[SV-1]本邦における痔核・痔瘻の古典的治療法―とくに分離結紮術とシートン法―

黒川 彰夫 (黒川梅田診療所)
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先達と呼ぶにふさわしく、長らく肛門科そして我々肛門科医を各学会・研究会のみならず様々な場で強く導いていただき、今なお我々以上の現役でもある肛門科医お二人です。黒川先生には古典的治療法として痔瘻“真のシートン法”と痔核“分離結札法”の奥義を、岩垂先生には名著『肛門基本術式の実際』を更にボリュームアップ、常にBETTER&BESTを目指す新なる術式手技の変遷・工夫をご講演いただきます。とくに肛門科を目指す若い先生方や他科の先生方にも今後の目指すべき指標ともなりましょう。記念の第80回、敬意をはらってお二人の最初で最後の肛門科愛の競演?をご拝聴していただけましたら幸いです。
【はじめに】わが国の痔疾患に対する治療法は、西洋医学が導入された前後で大きく変容してきた。最初は、1700年代にオランダ医学が取り入れられ、日本独自の方法と蘭学とを組み合わせた医療が実施されるようになった。その後、華岡青洲が西洋の外科学を参考にして、日本古来の医術を区別せずに独特の理論を編み出し実践した。つまり、それが痔核の「分離結紮術」、痔瘻の「シートン法」と呼ばれている古典的な結紮療法である。
【分離結紮術】この方法は、1998年に増田らが報告した古典的な痔核結紮療法であり、基本原理は、痔核の根部を持続的に緊縛することによって、局所の阻血性壊死を起こさせ、痔核を脱落させ、正常に近い肛門の状態に再生させようとした術式である。この考えは、痔核の発生原因が静脈瘤説であろうと支持組織減弱説であろうと十分対応でき、根治的であり侵襲も必要最小限に実施することができる。この術式の要は痔核根部に二重の絹糸を刺入、2本にして左右に振り分けて強く結紮することである。その結果、痔核が脱落した創面は良好な肉芽に覆われ、脱落後3週間程度で上皮化し、伸展性に富んだ柔らかい状態で治癒するのである。
【シートン法】痔瘻に対する古典的結紮療法は、シートン法と呼称され紆余曲折はあったが、今日では痔瘻根治術の有用な一方法として認知されるようになった。1995年に我々が「古典的な痔瘻根治術」を報告して以来、古典的な痔瘻結紮療法の原法と諸家が一般的に実施しているシートン法には、考えや手技にかなりの乖離がみられるようになってきた。古典的手技の原則は、特殊な糸やゴム紐で痔瘻を可能な限り緩徐に切開解放する方法で、肛門括約筋の損傷を最小限に防ごうとする考えである。
【まとめ】痔核は分離結紮術、痔瘻はシートン法という名のもとに、肛門科の専門医の間で汎用され、最近では普遍性のある痔核や痔瘻の根治術の一つとして認識されるようになった。しかし、最近は原則とは異なった手技も散見されることを憂惧する。今回、古典的痔疾治療法の歴史的背景と手技の原則について、経験則的考察も加えて述べたいと考える。