講演情報

[OS-04-02]信濃川流域における治水と都市開発のシステムレベルでの経済分析:短期での最適化が生む長期的な脆弱性

*石渡 幹夫1、川崎 昭如2、福渡 隆3 (1. 明治大学 経営学部、2. 東京大学未来ビジョン研究センター、3. 国土交通省近畿地方整備局)
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キーワード:

堤防効果、安全開発パラドックス、信濃川、システムレベル費用便益分析、経路依存性

治水戦略の作成では,気候や社会経済状況の変化に対応するため,数十年から数世紀の長期的視点が求められる.従来の費用便益分析は個別の事業を20~50年の評価期間で独立に評価するため,事業間の相互依存性や長期的に発生する影響を捉えきれないという限界を持つ.特に,治水構造物がリスク認知の低下を介して氾濫原での開発を促進し,かえって潜在的脆弱性を拡大させる「堤防効果」の影響は,体系的に定量化されてこなかった.本研究は信濃川下流の新潟市域を対象に,大河津分水(1924年通水),河道埋立(1933~1942年,約200ha),1963年埋立計画(1964年新潟地震を契機に中止),関屋分水(1972年通水),やすらぎ堤(1987年~)の一連の事業を,プロジェクトレベルとシステムレベルの両視点から再評価した.プロジェクトレベル評価では,1933~1942年埋立事業(造成地価値2,900億円,費用2,230億円),関屋分水(被害回避便益11兆7,100億円,費用3,650億円,費用便益比>30),やすらぎ堤,費用便益比>36)など,個別事業はいずれも経済的に正当化される.しかし,埋立と関屋分水を相互依存的事業群として連結評価すると,便益2,900億円に対し費用は合計5,880億円となり,純便益は-2,980億円に転じる.埋立事業は数十年遅れて顕在化する「隠れた負債」として流下能力の喪失(約4,500から1,500m³/sへ縮減)を生み,後年の補償的インフラ投資により便益が相殺された.意思決定の時間軸(数年~数十年)とレジリエンスへの影響が顕在化する時間軸(数十年~数世紀)の構造的不整合がこの逆説の根源にある.不可逆的な自然改変を伴う事業には,100年規模の評価期間設定,事業間相互依存性の明示的扱い,潜在的負債と保全されるレジリエンスの評価が不可欠である.気候変動に伴う降雨パターンの変化や,途上国における急速な都市化と人口増加を踏まえると,こうしたシステムレベルの視点はますます重要となる