講演情報

[PS-01-01]島原湧水群における水質・同位体特性の長期年変動とマルチトレーサー法による季節変動の解明

*植山 森1、藤井 海羽2、隈井 美帆2、利部 慎1 (1. 長崎大学総合生産科学研究科、2. 長崎大学環境科学部)
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キーワード:

島原湧水群、マルチトレーサー法、滞留時間、硝酸性窒素汚染、季節変動

長崎県の島原湧水群は、貴重な水資源である一方、近年は硝酸性窒素による地下水汚染や湧出量の減少が課題となっている。これまでの研究は長期的な水質変動や広域分布の把握が主であり、高時間解像度での季節的変動特性や、地下水滞留時間の季節的変動に関する知見は不足していた。そこで本研究は、複数の指標を組み合わせる「マルチトレーサー法」を用い、島原湧水群における水質・同位体特性の長期的な「年変動」と、高頻度観測に基づく「季節変動」のメカニズムを高精度に解明することを目的とした。調査・解析は大きく2つのアプローチで実施した。第一に、1980年代から2020年代にかけて広域約20地点で測定された主要溶存イオンや安定同位体比のデータを統合し、ヘキサダイアグラム等を用いて約30年間にわたる水質タイプの経年変化を視覚化した。第二に、汚染が懸念される5地点を対象に、毎月の高頻度観測を実施した。水温の常時モニタリングに加え、主要溶存イオン、安定同位体比、および年代トレーサーを組み合わせたマルチトレーサー解析を適用し、硝酸イオン濃度の季節変化メカニズムに迫った。長期的な年変動の解析から、水質タイプが安定している湧水が存在する一方で、一部の湧水では顕著な変化が確認された。例えば農用地の下流側では、経年的な硝酸イオン濃度の増加や卓越イオン種の年変動がみられ、数十年スケールでの環境変化への応答が示された。また、高時間解像度データの比較からは、降雨や季節変化に伴う動的な水質変動プロセスが明らかとなった。特に農業用地に近い湧水では、大規模降雨後に硝酸イオン濃度や電気伝導度が大きく変動するものの、年代トレーサーが示す平均滞留時間には顕著な変化が見られないケースが存在した。これは、浅層の農業由来の新しい水(降雨成分)と、深層に貯留された古い地下水(滞留時間が長い水)とが二成分混合を起こして湧出するという、複雑な流出プロセスを示唆している。本研究の結果は、長期的なトレンドを踏まえた上で、高い時間解像度でのマルチトレーサー観測を実施することが、複雑に交錯する流域水文過程の高精度な「可視化」に極めて有効であることを実証した。今後は、微量元素分析や環境DNA(eDNA)分析を新たに導入して多角的な解析を進め、得られた知見を科学的根拠に基づいた湧水群の持続的な保全や流域水資源管理に役立てていく。