講演情報

[PS-02-04]筑後川下流域における伝統的水管理「モタセ」による水害抑制機能の評価

*金子 貴信1、吉川 夏樹2、木村 匡臣3、長野 宇規4 (1. 新潟大学大学院 自然科学研究科、2. 新潟大学農学部、3. 近畿大学農学部、4. 神戸大学大学院農学研究科)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

モタセ、内水氾濫、数値シミュレーション

近年の気候変動により,各地で水害を引き起こす大規模な豪雨が発生している.こうした背景のもと,治水対策の新たな方向性として流域治水が提唱されている.流域治水における「氾濫をできるだけ防ぐための対策」の一つとして,既存施設の活用およびその効果の適切な評価の重要性が指摘されている.低平地では,水路網に設置された多数の水利施設によって用排水を管理する分散型の水管理形態が形成されてきた.福岡県柳川市では,橋梁下部の水路断面縮小による流下抑制や,多数の水門・堰の操作によって,治水と利水を両立させる仕組みが構築されている.この仕組みは,水を保つという意味から「モタセ」と呼ばれ,現在まで継承されている.しかし,その水害抑制機能は,施設操作や水路構造など多様な要素が複合的に関与するため,流域スケールでの定量的な評価は十分に行われていない.そこで本研究では,モタセがもつ特性を表現可能なモデルを構築し,モタセが有する水害抑制機能を流域スケールで定量的に評価することを目的とした.モデルの構築には,吉川らによって開発された内水氾濫解析モデルを基盤に,多数の水利施設によって細かく分割された水路を1つの貯水域として扱い,水路網の水の挙動を再現する堀割モデルを構築した.評価にあたり,比較対象としてモタセの特徴をすべて除外し,流れを一次元不定流モデルによって表現する既存のモデルを構築した.評価指標として,土地利用区分に基づく浸水の閾値を超える浸水深に浸水面積を乗じて算出した浸水量に加え,流域外への排水に着目した.また,降雨条件は降雨継続時間24時間,100年確率降雨を採用し,降雨ピーク時刻が降雨開始から1〜24時間の1時間刻みに変化する,24種類のハイエトグラフを設定した.検証の結果,モタセによる浸水量軽減率は平均50%となり,モタセは水路内の貯留能力を向上させるとともに,河川沿いに設置された樋門が有効に機能することで,下流域における浸水量を軽減する効果をもつことが示唆された.また,本対象流域では豪雨が予想される際に堀割の水位を事前に低下させ,雨水の貯留容量を確保する先行排水が実施されている.そこで,堀割モデルを用いて先行排水による浸水量軽減効果を検証した.その結果,先行排水による空き容量の確保は,下流域における浸水量を抑制できるとともに,排水機場の運用コストを低減することが明らかとなった.