講演情報
[140]人工心肺中の人工肺内圧上昇を経験した1例
菅田 岳洋1, 佐々木 慎理1,2 (1.川崎医科大学附属病院 ME センター, 2.川崎医療福祉大学医療技術学部臨床工学科)
【緒言】人工心肺を用いた心臓血管手術における人工肺入口圧の異常上昇は,人工肺の緊急交換などの危機的な状況を惹起する可能性がある.今回,人工肺入口圧の急上昇が発生した症例を経験したため報告する.【症例】60代男性.心臓腫瘍に対し心臓腫瘍摘出術の方針となった.ACT814秒で人工心肺を開始するも開始後約10分で人工肺(メラエクセラン®)の入口圧が急上昇し300mmHg以上の高値となった.手術の進行を一時停止しヘパリンを追加投与,5分間の経過観察をおこない人工肺内圧がこれ以上上昇しないことを確認,緊急交換は不要と判断し再開とした.その後,急激な圧上昇等なく人工心肺は離脱し手術終了となった.対処後1時間後には入口圧は300mmHg以下となっており,離脱後の人工肺を目視で確認するも血栓等の異常は確認されなかった.患者は術後2hrで抜管し16日後に軽快退院した.【考察】本症例の人工肺内圧上昇の原因は寒冷凝集や血栓が推測された.送血温は最低33℃台と大きな低下はなかった.日本心臓外科学会の人工心肺内圧上昇WGは人工心肺内圧上昇に伴う問題を低減するため,ACT480秒以上,初期ヘパリン投与量300単位/kg以上,人工心肺開始10分以上前に投与完了の3点を提案されている.本症例では初期ヘパリン投与量が294単位/kgと条件をわずかに満たしていなかったが,ACTは術中480秒以上での管理をおこなったため,凝固不足が原因である可能性は低いと考える.また,2024年に報告された人工肺内圧の上昇に関しての後ろ向き研究では圧力推移と発生時期で6つの形態に分類,また形態ごとの危険度や対処法を示しており,本症例はガイドラインに則った対応で人工肺の交換を回避しえた症例であった.【結語】人工肺を緊急交換することなく人工心肺の維持ができた.しかしながら,原因の特定には至らなかった.本症例を生かし,人工肺の交換と経過観察の各々のリスクを考慮し迅速に対応できるよう尽力していく.