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[82]イオンレス次亜塩素酸水を用いた医療機器拭き取り除菌に関する基礎的検討

古平 聡1, 坂上 友梨1, 藤井 清孝1, 藤井 正実1, 齊藤 実1, 長江 祐吾1, 新山 大地1, 小澤 智子2, 小倉 憂也2, 榊原 正也2 (1.北里大学医療衛生学部, 2.北里環境科学センター)
【背景】医療機器を介した接触感染対策には清拭消毒が必須であり,感染力に見合った消毒薬が選択されている.一方,塩化ナトリウム水溶液の電気分解により生成される次亜塩素酸水は人体への影響が低く,高い殺菌効果が示されている.【目的】今回,不織布含浸拭き取り操作モデルによるイオンレス次亜塩素酸水の有効塩素濃度と除菌効果について検討をおこなった.【方法】イオンレス次亜塩素酸水(シーエルファイン®)原液600ppmを50,100,200,400ppmに希釈し,pHを測定した.牛血清アルブミン水溶液(6g/L) に黄色ブドウ球菌( 1 ~ 5 ×109個/mL)を等量加えて混合し,滅菌ステンレス試験担体に0.01mL塗り拡げた.イオンレス次亜塩素酸水10mLを含浸させた不織布で試験担体表面を120拍/分で5往復拭き取り,5分間作用後に洗い出しをおこなった.混釈平板培養法により培養後,コロニー数を計測し,除菌活性値を算出した.【結果】原液希釈後のPHは4.0±0.3であった.除菌活性値は,0.4(50ppm),2.1(100ppm),4.6(200ppm),4.6(400ppm)であり,除菌効果(除菌活性値2以上)を示した有効塩素濃度は100ppm以上であった.【考察・結語】医療機器清拭消毒では,消毒効果とともに機器の耐劣化性や安全性が求められる.イオンレス次亜塩素酸水は,微生物細胞内外部に対して次亜塩素酸の酸化作用により殺菌効果をもたらすとされるが,結果より,pHは弱酸性であることから金属腐食作用や皮膚,粘膜刺激は次亜塩素酸ナトリウムよりも低いことが推察される.また,臨床では血液付着があった場合には物理的除去後に消毒をおこなうため,有機物に対する有効塩素の消費が少なくなることから本モデルより低い有効濃度や拭き取り回数でも除菌可能であると思われる.イオンレス次亜塩素酸水は院内感染制御の新たなツールになりうる可能性があり,今後は,本結果をもとに実医療機器による材質や形状等を考慮した評価を進めることができるものと考える.