講演情報

[教育講演1]医療経済評価:医療機器を中心に

後藤 励 (慶応義塾大学大学院経営管理研究科)
現在,医療費の増加が社会的に問題となっている.しかし,医療費が伸びること自体は問題ではない.様々な医療サービスが生産され,医療者含めたくさんの人が雇用されている.実際に,医療・福祉の部門での就業者の人数は増え続けており,製造業や小売・卸売業に迫る勢いである.しかし,現在の医療費の財源は,患者自己負担が約12%,保険料が約50%,税が38%となっている.税は,医療以外にも使われる.国の財政は国債の発行残高がすでにGDPの200%近くとなっており,財政の持続可能性に対する懸念が高まっていることから,医療費をどのように効率的に使用するかが重要視されている.公的医療費のコントロールはどの国でも大きな政策課題となっているが,魔法のような方法はない.日本では,患者自己負担の増加(後期高齢者の自己負担や高額療養費制度の見直し等)と伝統的には診療報酬改定が医療費コントロールの中心となってきた.しかし,海外でおこなわれてきた医療の経済評価の利用はこれまでおこなわれてこなかった.2019年から,医薬品・医療機器等に対する費用対効果評価がおこなわれている.保険収載後,中医協での費用対効果評価の対象品目に選定されることによって費用対効果評価が始まる.ただし,すべての新規製品が評価対象となるわけではなく,基本的には革新性が高く財政影響が大きい品目が対象となる.医療経済評価は,公的機関が医療技術の効率性を評価する目的で始まった.実際には各国で医療技術評価をおこなう公的または第三者機関が作られ,政策上の意思決定に情報提供をおこなっており,医療費のコントロールを最大の目的としている.分析対象や,利用する政策,分析方法など国によって違いがある.欧州やカナダ,オーストラリアなどでは保険償還の可否を決めている.今後日本でも,費用対効果評価の政策利用が進むことで,保険収載品目の価格調整だけでなく,償還の可否に対しても活用される可能性はあるだろう.アメリカのような医療費の支払者が連邦・州などの公的機関から民間保険会社まで多数ある国では,公的機関で一括して医療経済評価をおこなうというよりは個別の支払い者が評価と意思決定をおこなっている.さらに,各学会が臨床医の意思決定に情報提供をおこなうために費用対効果も考慮するということが最近始まっている.日本でも,2020年のMINDS診療ガイドライン作成マニュアルに医療経済の章が新設された.このように,日本では医療経済評価の公的機関での利用も学会での利用も始まったばかりである.当日は特に医療機器について,現状の評価の状況からどのような課題があるのかについてお話しする.