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[教育講演3]医療機器本体GS1バーコード表示(UDI)利活用で実現する医療DX~患者安全と病院経営に役立つトレーサビリティ確保~

酒井 順哉 (名城大学 名誉教授)
厚生労働省は,医薬品,医療機器および再生医療等製品の取り違え事故防止やトレーサビリティの確保,流通の効率化を図るため,2019年12月に公布された医薬品医療機器等法に基づき,医療用医薬品,医療機器等への添付文書の電子化を2021年8月1日(2年間の経過措置期間有り)から義務付けるとともに,医療用医薬品,医療機器等へのGS1バーコード表示も2022年12月1日から義務化した.また,(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)は,2005年から製造販売業者の電子版添付文書の登録協力を得て,「医療機器添付文書情報データベース」において医療用医薬品・医療機器の添付文書電子版の公開を推進すべく,2021年8月1日から2023年7月31日までに製造販売業者が電子版添付文書(電子添文)を登録することを通知するとともに,医療機関でスマートフォンアプリ「添文ナビ」を使った電子版添付文書の把握が「いつでも・どこでも」できるようになり,患者安全の観点から医療資材の誤使用防止が容易に把握できるようになった.医療用医薬品のGS1バーコード表示については,厚生労働省が2006年に医療用医薬品の調剤や患者投与の際に役立つよう「医療用医薬品へのバーコード表示の実施要領」で内用薬のPPTシートや注射薬のアンプル・バイアルなどの調包装単位,販売包装単位でGS1 Databar,元梱包装単位でGS1-128を表示することを通知したことで,現在ではすべての医療用医薬品にGS1バーコード表示がされ,製造販売業者との受発注や医療現場での三点認証による誤薬防止などに活かされるようになった.一方,医療機関における医療機器GS1バーコードの利活用は,厚生労働省が2022年12月1日にすべての医療機器にバーコード表示を義務付け,医療機器のGTINで対外的に整合性が確保できるとともに,電子添文の把握が添文ナビで容易に検索できるようになったものの,医療用医薬品バーコードの利活用ほど上手く進展していない.なぜなら,医療機器・医療材料のバーコード表示は病院独自コードを使い30年以上も前からME部門における貸出管理や保守点検に使用され,医療材料は病棟・外来への払い出しや医療請求にローカルバーコード表示が使われてきたため,GS1バーコードを改めて利用する意識が低い傾向にある.さらに,現状における医療機器のGS1バーコード表示は,医療機器本体裏の銘板近くにバーコードが表示されているものが多いことや,包装に留まり本体に直接バーコード表示のない医療機器もあり,これでは臨床現場で使えないという意見が大半である.このような標準化と逆行する今後の運用では,医療スタッフの働き方改革,患者安全の強化,物流の精緻化と迅速化,コスト削減まで含めたDX(digital transformation)を促進する運用に限界が生じることは明らかである.インターネットを使いGS1バーコードで医療材料の電子受発注をする効率的な方法に比べると,在庫不足分の医療材料を調べ,その医療材料を発注伝票形式に印刷しFAXするような方法では,受注した販売業者でGS1コードに変換する作業が発生するため,コード変換ミスが生じたり,ラベルを貼り間違うリスクや作業時間にも無駄がある上,納品価格に少なからず影響を与えることになる.このような観点から標準化を最大限に活用しているコンビニなどの流通業界と比較すると医療機器の販売業者と医療機関間の物流整備は20年以上も遅れている現状にある.2009年から国内における健康・医療のデータ基盤を整備し,国および都道府県が医療費適正化計画を立案する際に参照にすることを目的として,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB:National Date Base)が構築され,2011年度以降からNDBのデータを医療機関の研究者に一部限定して第三者提供し,医療サービスの向上を目指す施策の推進や分析・研究にも役立つようになってきた.また,政府は,医療の質を向上させる狙いで,問診の結果を基に,疾患の特定や治療方法を医師に提案する国産生成AIの開発を進めており,今後,電子カルテシステムの標準化とともに,医師の診療や医療行為を支援する生成AIを数年以内に実用化するものと予想される.これにより今まで一施設の統計分析に留まっていたデータに他施設を含めたビッグデータで扱う運用が可能となり,より信憑性の高い分析ができるため,新しい治療法や創薬の開発にも役立っているが,従来のローカルコードでは使い物にならない.今後,医療機器の不具合・ヒヤリハット事例や利用分析・評価においてGS1コードの利活用を考えると,電子カルテシステムの更新に伴ってGS1コードでの個々の医療機器の不具合(故障率など)や使用回数,保守点検履歴などを定期的に登録することで,他の施設を含めた傾向分析が可能となるため,不具合の頻度や最適な点検時期,同じ手術術式で使われる医療機器や医療材料が使用頻度を知ることでクリニカルパスの見直しにも役立てることができよう.現在,医療機器本体のGS1バーコード表示が法的に義務化されていないことは残念であるが,厚生労働省の法整備を待っていては何時になるか分からない.その解決法として製造販売業者と医療機関が協働でGS1バーコードの利活用を補完する手段を模索し,そのインフラを駆使して医療機器管理に関わる様々なDXを実現しなければならない.製造販売業者においてGS1バーコードを医療機関で添付ナビの閲覧や貸し出し管理,保守点検に有効利用してもらうには,医療機器本体裏面の銘板部分へのGS1バーコード表示ではなく,GS1バーコードを医療機器本体の正面や側面に表示してもらうことや,それが無理な場合,GS1バーコードラベルを製品に同梱する努力が望まれる.一方,医療機関における医療機器バーコードは,従来の病院独自バーコードの継続に固執するのでなく,臨床工学部で販売包装単位のGS1バーコード表示をスキャナで読取り,新たに病院で本体にGS1バーコードやQRコードをリラベルする努力が必要であろう.この実現には各医療機関の臨床工学技士が率先して10年先を見据えた,より効率的で多目的に使える医療機器管理のGS1利活用構想を今から計画にする必要があろう.