講演情報
[大会長講演]「未来への架け橋」に込めた思い
加藤 伸彦 (北海道情報大学医療情報学部医療情報学科)
一昨年,記念すべき第100回大会に際し,高階雅紀理事長より大会長という大任を拝命いたしました.このような重責を仰せつかりましたことに,身の引き締まる思いを抱きつつ,江島豊プログラム委員長をはじめとする関係各位の多大なるご尽力のおかげで,本日無事に大会を迎えることができました.心より感謝申し上げます.<br/>私が本学会(旧・日本医科器械学会)に入会したのは1991年であり,以来約35年にわたり,臨床工学技士として医療現場と教育現場に身を置きながら,多くのご指導と学びを賜ってまいりました.1998年,横浜で開催された第73回大会で初めて演題発表をおこなった際は,北海道大学医学部附属病院手術部に赴任した直後で,まさに自身のキャリアと人生が大きく転換し始めた時期でもありました.あの頃の私は,「少しでも社会の役に立ちたい」という一心で,勉学・業務・研究にひたむきに取り組んでおりました.そして今,こうして大会長として登壇する機会をいただきながらも,私自身が偉くなったわけではなく,これまでの地道な積み重ねの一部が,周囲の皆様に評価されたに過ぎないと実感しております.日々,自らの歩みを振り返り,「果たして自分は今,前に進めているのか」と自問する毎日です.本大会のテーマ「未来への架け橋 ~伝統と革新の融合~」には,これまで本学会が築いてきた誇り高き歴史と,未来に向けた挑戦と創造を結びつける想いを込めました.伝統を継承するだけでなく,それを足がかりに革新へとつなげていく,まさに“架け橋”としての学会の役割を再認識する必要があると考えています.本学会は,「産学連携による医療技術・機器の改良開発および医療安全の発展を通じて,医学・医療の質の向上を図り,人類の健康と福祉に貢献すること」を理念とし,医療従事者,アカデミア,企業関係者など多彩なメンバーで構成される,きわめて先進的かつ学際的な学会です.しかしながら,社会全体が急速に変化するなかで,その先見性や多様性を十分に活かしきれていない現実もあります.今私たちは,大きな過渡期に差しかかっており,本学会もまた,未来を見据えた新たな進化が求められていると感じております.臨床工学技士としての経験から申しますと,医療機器の専門家である我々が,もっと主体的に学会活動へ参画し,産学官と連携しながら次世代の医療安全と技術革新に貢献していくことが,これからの時代において不可欠です.今日の医療は,目覚ましい医療機器の進化と,それを支える多くの医療スタッフの努力によって支えられています.一方で,技術の高度化に伴い,従来の枠組みでは予測できないような新たなリスクや課題も生じています.これまでの常識では対応しきれない“未知”にどう立ち向かうか,それこそが,私たちに課せられた現代的な責務です.だからこそ,「医療機器における安全思想の確立」など,新しい視点からの学術的・実務的アプローチが必要です.そして,それを支えるのは過去の知見や経験であり,それらを“革新”へとつなげる柔軟な発想と連携力だと信じています.今,求められているのは,「過去を振り返り,変化を受け入れ,挑戦していく」姿勢です.まさに,伝統と革新の両輪を携えた未来への架け橋となる意識と行動が,これからの医療と学会を形作る鍵となるでしょう.このたび,歴史と伝統を有する日本医療機器学会の大会長として講演の機会をいただけたことを,心より光栄に思っております.本講演では,臨床工学技士としての視点を交えつつ,本学会が未来に向けて果たすべき役割と可能性について,私の考えを述べさせていただきます.