講演情報

[シンポジウム12]能登半島地震の医療現場を支えた経験と日頃の取り組み

浅井 一倫 (冨木医療器㈱金沢支店)
令和6年能登半島地震から1.5年が経過したが,いまだ余震が続き,当時の状況が鮮明に記憶されている.本地震では,山と海に囲まれた地域で主要道路が寸断され,孤立する集落が発生するなど,医療現場に深刻な影響を及ぼした.能登地域の多くの医療機関が診療不能となる中,日頃からの備えにより平時と同様の機能を維持し,対応を続けた病院も存在した.このような状況下で,医療機器販売ディーラとしての迅速な対応が求められた.発災翌日,県からの医療材料供給要請を想定し,準備を開始した.七尾市の営業所を活動拠点とし,県の担当窓口からの要請に対応可能である旨を即座に伝えた.発災3日目には,最大震度7を記録した地域の町立病院から吸引器不足の緊急要請があった.同病院では手術室の天井崩落により医療配管が断絶し,病棟での吸痰ケアが困難な状況に陥っていた.電源が使用可能であることを確認した上で,ポータブル吸引器(足踏み式吸引器を含む)を準備し,搬送を実施した.通行不能の道路が多い中,安全を最優先に対応し,2名体制で無事に受け渡しを完了した.この経験を通じ,災害時における医療機器供給の重要性と,平時からの備えの有効性を改めて実感した.特に,ディーラとしての使命は,医療機関に安心安全に商品を届け,適切に使用してもらうことであり,災害時の物流網の混乱を最小限に抑えるためには,地域間連携や情報集約,代替ルートの確保,医療機関間での物資共有体制の構築も必要である.さらに,今回の地震を教訓に,医療機器供給体制をBCPに組み込むことで,物資供給の効率化と安定化を図ることが可能である.また,災害時における通信手段の多重化や,物流業者との連携強化も重要な課題である.