講演情報
[特別講演2]器官機能再建への展望 –オルガノイドと腸呼
武部 貴則 (東京科学大学 総合研究院)
1990年シクロスポリンの承認以降,末期臓器不全性に対する唯一かつ絶対的な根治療法は臓器移植であるが,ドナーの決定的な不足による新たなアプローチが待望されている.器官機能再建を目指す主たるアプローチには,主として,I.障害臓器の自己回復促進,II.新生臓器の移植,III.既存器官の転用,の3つを挙げることができる.我々の研究グループでは,II.へのアプローチとして,肝胆膵発生制御機構の理解に基づく,iPS細胞由来の次世代型肝オルガノイドの開発に注力してきた.すなわち,胆汁排泄を担保する管腔ドメインの誘導,臓器特異的血管系の組み込みによる生着効率の向上,さらに,酸化ストレス応答の人工的制御によるゾーン特異的肝細胞の分化などの達成に成功してきた.これらを通じて,従来の分化誘導技術では達成困難であった複数の肝機能の再現が可能となり,臓器の機能置換を目指す再生医療が現実味を帯びてきた.近年では,肝臓オルガノイドを組み込んだ生体人工肝装置の開発を進めており,代謝・解毒機能の補填を介した末期肝疾患への有用性を示しつつある.さらに,器官機能再建における第三概念として,既存器官を別の臓器の機能不全治療に活用する臓器リパーポシングという新たな医療概念を提唱している.具体的には,水棲生物が有する能力である腸呼吸に着想を得て,酸素化パーフルオロカーボンを浣腸投与する「腸換気技術(EVA法)」の臨床応用を試みている.医学の歴史上初の試みである腸換気法に基づく治療が実現されれば,従来の経気道換気における様々な有害事象を回避しながら,莫大な数の呼吸不全患者救命に資する治療技術が確立されることが期待される.本講演では,オルガノイドと腸呼吸という2つの視点から器官機能再建を目指す基盤研究および非臨床研究の進展を総括するとともに,将来的に周産期新生児医療への活用可能性について議論したい.