講演情報
[EL1-2]医療応用に向けたDLC研究の現況
馬目 佳信 (東京電機大学)
DLCはダイアモンド結合(SP3)とグラファイト結合(SP2)の両者の炭素-炭素結合を持つアモルファスな炭素材料であり様々な素材の表面をコーティングすることが可能である.この含有比を変化させることでダイアモンドのような硬くて絶縁性の性質を持つものからグラファイトのような柔らかくて導電性のあるものまで幅広い性質を表面に加工できるためこれまでに多くの機械や自動車用の部品,ゴルフクラブなどのスポーツ用品等に使用されてきた.またDLCは,1.高い生体適合性: 炭素を主成分とするため人体への拒絶反応が少なく細胞毒性も認められてない,2.優れた耐久性: オートクレーブを繰り返しても劣化や剥離が起きにくい耐変質性を備えている,3.抗菌・防汚性: 菌の増殖を抑え,感染症リスクの低減に寄与する,4.金属アレルギー対策: ニッケルなどの金属イオンの溶出をブロックするバリア層として機能する,といった多くの優れた特性を持つため生体工学や医療デバイス開発の分野でも利用が進んでいる.
DLCの作成にはプラズマCVD法,イオン化蒸着法 アーク法,スパッタリング法などが用いられる.実際にはメタンのような炭素を含有する気体原料や,グラファイトなど固体原料に放電等の処理を行うことで炭素を含む正イオンを生成させ,電界で加速して基板上に有効なDLC膜を作成する.
この時イオンと同時に中性ラジカルやクラスターも成膜に影響を与えることが知られており,基板に達するイオンやラジカルの割合などがDLCの合成速度や膜質を決定する.また原料の中に水素が存在すると生成されたDLCにも水素原子が含まれるがこのことがDLCを生体で利用する上での大きなオプションにもなっている.例えばDLCの中の水素含有量はDLC膜上での細胞の接着性や凝集性に影響を与えるなどの知見が得られている.
ここで生体材料としてDLCを用いる時に考慮すべき点は細胞の足場(Scaffold)としての役割である.組織中の多くの細胞は足場依存性の細胞で,これらの細胞が生体内で分化したり増殖したりするためには細胞の隣に足場が存在することが必須であり,他の細胞や細胞外基質などの足場と接着している状態でなければ増殖できず,細胞はアポトーシスなどで死んでしまう.通常DLCは細胞に良好な足場を提供するが細胞の膜上での振る舞いは細胞の種類によって大きく異なることが分かってきた.例えばシリコンに通常のDLCコーティングした基板の上でマウス線維芽細胞と骨芽細胞を培養すると,線維芽細胞ではDLCの有無で細胞の増殖にそれほど差は認められないが,骨芽細胞ではDLC上で明らかに増殖能が上がるため,時間を経ると細胞数は顕著に増加する.さらに細胞は自身の置かれた物理的な状態を感知するメカニズムを持っていて圧力や張力,足場の硬さなどを感知して活性化するためDLCのコーティングの有無だけではなく硬さや親水性・疎水性などが細胞の分化や増殖に大きく影響する.
またDLC自体に生体内で機能性を持たせる研究も進んでいる.医療用のデバイスでは生体内で機能性を持たせるため様々な薬剤やペプチドなどが用いられているが,DLCは作成の過程で温度が200℃程度まで上昇するため我々は機能分子として有機物ではなく無機物,特に銅や亜鉛などの金属を利用している.生体での必須微量元素は鉄,亜鉛,マンガン,ヨウ素,コバルト,クロム,セレン,モリブデンの9種類であるが,中でも亜鉛は10 ~ 30%の日本人で不足気味で,特に老人では亜鉛欠乏の患者が多くベッドレストの状態での骨折後の治癒遷延や難治性褥瘡の一因となっている.
この金属はイオン化傾向が高く体内の300種類以上の酵素の活性中心となっているので欠乏するとタンパク合成が全般的に低下する.このような場合デバイスからの補充は有効な手段となり得よう.
亜鉛含有のDLCついては平栗教授の講演を参考にされたい.
以上のように講演では医療デバイスの応用に向けた研究の現況について生体でのDLCの足場としての役割や機能性を持たせる工夫などを含めて概説する.DLCの医療デバイスへの実用化に向けて参考になれば幸いである.
DLCの作成にはプラズマCVD法,イオン化蒸着法 アーク法,スパッタリング法などが用いられる.実際にはメタンのような炭素を含有する気体原料や,グラファイトなど固体原料に放電等の処理を行うことで炭素を含む正イオンを生成させ,電界で加速して基板上に有効なDLC膜を作成する.
この時イオンと同時に中性ラジカルやクラスターも成膜に影響を与えることが知られており,基板に達するイオンやラジカルの割合などがDLCの合成速度や膜質を決定する.また原料の中に水素が存在すると生成されたDLCにも水素原子が含まれるがこのことがDLCを生体で利用する上での大きなオプションにもなっている.例えばDLCの中の水素含有量はDLC膜上での細胞の接着性や凝集性に影響を与えるなどの知見が得られている.
ここで生体材料としてDLCを用いる時に考慮すべき点は細胞の足場(Scaffold)としての役割である.組織中の多くの細胞は足場依存性の細胞で,これらの細胞が生体内で分化したり増殖したりするためには細胞の隣に足場が存在することが必須であり,他の細胞や細胞外基質などの足場と接着している状態でなければ増殖できず,細胞はアポトーシスなどで死んでしまう.通常DLCは細胞に良好な足場を提供するが細胞の膜上での振る舞いは細胞の種類によって大きく異なることが分かってきた.例えばシリコンに通常のDLCコーティングした基板の上でマウス線維芽細胞と骨芽細胞を培養すると,線維芽細胞ではDLCの有無で細胞の増殖にそれほど差は認められないが,骨芽細胞ではDLC上で明らかに増殖能が上がるため,時間を経ると細胞数は顕著に増加する.さらに細胞は自身の置かれた物理的な状態を感知するメカニズムを持っていて圧力や張力,足場の硬さなどを感知して活性化するためDLCのコーティングの有無だけではなく硬さや親水性・疎水性などが細胞の分化や増殖に大きく影響する.
またDLC自体に生体内で機能性を持たせる研究も進んでいる.医療用のデバイスでは生体内で機能性を持たせるため様々な薬剤やペプチドなどが用いられているが,DLCは作成の過程で温度が200℃程度まで上昇するため我々は機能分子として有機物ではなく無機物,特に銅や亜鉛などの金属を利用している.生体での必須微量元素は鉄,亜鉛,マンガン,ヨウ素,コバルト,クロム,セレン,モリブデンの9種類であるが,中でも亜鉛は10 ~ 30%の日本人で不足気味で,特に老人では亜鉛欠乏の患者が多くベッドレストの状態での骨折後の治癒遷延や難治性褥瘡の一因となっている.
この金属はイオン化傾向が高く体内の300種類以上の酵素の活性中心となっているので欠乏するとタンパク合成が全般的に低下する.このような場合デバイスからの補充は有効な手段となり得よう.
亜鉛含有のDLCついては平栗教授の講演を参考にされたい.
以上のように講演では医療デバイスの応用に向けた研究の現況について生体でのDLCの足場としての役割や機能性を持たせる工夫などを含めて概説する.DLCの医療デバイスへの実用化に向けて参考になれば幸いである.
