講演情報

[EL4-1]AIによる最適な医療機器選択で実現する次世代スマート物流プラットフォームの社会実装

竹下 康平1,2 (1.東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部, 2.㈱NiDUS)
円安,国際的な供給制約,物流人材不足,いわゆる物流2024年問題が重なるなか,医療機器の安定供給は医療提供体制を支える重要課題となっている.特に手術関連機器では,患者・病変・術者の判断により使用製品やサイズが大きく変動する一方,発注・適正使用支援・返却の多くが電話,紙,個別調整に依存してきた.その結果,医療機関では直前確認や持ち込み在庫の管理,卸売事業者では過剰手配,緊急配送,現地立会い,返品対応が常態化し,メーカにも過剰在庫による使用期限切れや損耗によるロスが生じている.診療報酬によって償還価格が公定される医療機器では,インフレや運送費上昇を販売価格へ転嫁しにくく,流通コストの増大は産業側・医療側双方の持続性を脅かす状況となっている.本講演では,これらの情報非対称と業務プロセスのひずみを,AIとデータ連携により解消する「次世代スマート物流プラットフォーム」の社会実装について報告する.
我々はこうした社会課題を解決するため,内閣府のBRIDGE事業の支援を受け,医療版ECサイト「NiDUS」を中心とした物流プラットフォームの社会実装にチャレンジしている.「NiDUS」は,手術日・症例情報のカレンダー共有,治療シミュレーションアプリと予測AIによる医療機器の絞り込み,物流業者への出荷指示,遠隔立会いを一体化したプラットフォームである.AIは事前情報から必要となる製品・サイズを推定し,従来の「不足しないよう多めに手配する」運用を,症例ごとに最適化された手配へ転換する.これにより,非熟練医師でも必要サイズを把握しやすくなり,不適正サイズの開封・損耗,使用されにくい製品の供給・返却,使用期限切れ在庫の削減が期待される.
また,電子発注と共同物流倉庫,RFIDによる入出庫・返却管理を接続することで,発送・受入れ・棚卸の正確性と効率性を高める.遠隔立会いは,卸売事業者やメーカ担当者の移動・待機時間を削減しつつ,必要時には専門人材が遠隔から適正使用支援を行う仕組みであり,地域間の支援格差の縮小にも資する.
予測AIは脳血管内治療向けに構築し,事前情報をもとに配送が必要なコイルを予測することで,十分な情報がある症例では平均66.8%の配送コイル削減を達成した.さらに,物流業者とのシームレスな連携により受注データから出荷指図までを電子化すること,およびRFID活用により出荷処理時間を短縮することで,発注から翌朝には受取可能となった.また,緊急手術を扱う診療科では予定手術用の定期便に加え,在庫を柔軟に活用した緊急配送体制も必要となる.3PLとの実証では緊急配送も検証し,目的とするリードタイムでの配送を達成した.
RFIDによる入出荷記録は,預託在庫を前提とした貸出・返却モデルの運用実態を可視化し,過剰在庫候補や高消費品目,施設別・手技別の使用傾向を把握することにつながり,需要予測,在庫配置の高度化の可能性を示した.病院での遠隔立会い(適正使用支援)実証では,病院ごとに異なるオペレーションに対応するとともに,遠隔支援によって立会いが無くなることへの抵抗感を軽減し,原則立会い不要となる病院も見られた.医師に対しては,紙カタログをWeb化しGPTを応用した比較検討ツールを提供することで,最新情報へのアクセスと検討負荷を軽減し,医師の誘因機能を強化する等の仕組みを実証した.
社会実装には,単なる発注電子化ではなく,医療機関,卸売事業者,メーカ,物流事業者が同じデータを基盤に意思決定するエコシステム構築が必要である.情報プラットフォームの整備,AI予測や遠隔立会いへの信頼獲得とインセンティブ設計,公定価格制度下での診療報酬や物流費の見直し,RFID等による物流効率化と体制の構築,ESGを意識したサプライチェーン運用が重要となる.これらにより,医療機器廃棄削減や環境負荷低減を図りながら,持続可能な医療を業界全体で実現するプラットフォームの社会実装が可能となる.