講演情報

[GL1-1]医療機器業界を取り巻く環境と医療機器メーカが取り組むべき課題

大竹 真由美 (㈱みずほ銀行 産業調査部 次世代インフラ・サービス室 戦略プロジェクトチーム)
1.日本の医療の現状と課題
日本の医療は,皆保険の下で高いアクセスと質を実現してきた.一方で,人口動態の変化に伴い医療・介護需要の増加が見込まれる中,医療提供体制の持続性を中心に据えた議論がこれまで以上に重要になっている.
日本は,限られた人材・財源のもとで,諸外国と比べて病床数や受診機会が相対的に多い構造であり,結果として医療機関・医療従事者等の負荷につながっている.さらに,足元では,医師・看護師等の確保,物価・賃金の上昇,医療材料費の高騰に加え,感染症・災害・サイバーセキュリティなど,医療機関・医療従事者の対応すべき事項が日々山積している状況である.
2040年に向けて,医療の質を維持・向上させながら,限られた人材・財源で医療提供体制を支えるために,省力化・業務効率化をどのように実現するかが主要な論点となる.
2.課題解決に向けたアイデア
打ち手としては,医療の質の維持と効率化を両立させながら,提供体制を「患者接点」「臨床プロセス」「病院運営」の観点で再設計していくアプローチが考えうる.
第一に,デジタルソリューションの活用により,外来受診頻度・入院需要を適正化するとともに,早期退院の後押しをおこない,可能な領域から①在宅ケアの活用(医療の提供場所の最適化)を進める.
第二に,病院内では,AIを活用した問診・記録の省力化や診断・治療支援により,②臨床ワークフローの効率化(診療プロセスの負荷低減)を図る.
第三に,病床稼働率や医療スタッフの稼働状況などの院内情報を一元化し,モニタリング・分析につなげることで,③院内オペレーションの効率化(運営の可視化と最適化)を進める.
加えて日本は,皆保険制度下で多様な医療データが蓄積されてきた強みを有する.医療の質の高さ,超高齢社会としての課題先進性といった特徴も踏まえ,統合データ基盤や,課題解決を支えるAI活用モデルの整備,ならびに制度改革・法整備などを進めることが重要となる.
3.医療機器産業の現状
医療機器市場はグローバル・国内ともに中長期的に安定成長が見込まれるが,日本企業は欧米の大手企業と比べて事業規模で劣後し,研究開発投資やM&Aの規模で制約を受けやすい.さらに,近年は,中国企業が国の後押しも受けながら,価格競争力と供給スピードを武器に,中国・ASEAN市場を中心にシェアを拡大している.かかる中,日本企業は,製品別に見れば高い競争力を持つ分野も多いため,機器の強みをベースにしつつも,上述した医療機関・医療従事者の課題解決に資するソリューションを包摂する形で,プレゼンスを高める余地があると考える.
4.医療機器メーカのありたき姿
本講演では,医療提供体制の構造変化と医療機器産業を取り巻く環境を踏まえ,医療機器メーカが医療現場にどのように貢献し得るか,さらにそれを事業拡大およびグローバル市場でのプレゼンス向上につなげるための具体的な仮説を提示する.
医療機器メーカには,従来からの「機器の性能・機能」や「臨床アウトカム」の訴求に加え,医療現場が直面する人材不足や経営環境の制約に対して,省力化・稼働率向上・運営負荷の低減といった価値を設計段階から組み込むことが求められる.さらに,製品導入後も業務時間,入院日数,再入院率といったKPI(重要業績評価指数)に基づく効果検証を通じて,改善していくことが重要となる.言い換えれば,医療機器の提供価値を機器単体に閉じず,「病院運営や医療提供を支えるソリューション」として再定義していくということである.
強みをもつ製品と臨床ワークフロー支援を含むソリューションを一体的に提供し,日本が誇る「高品質なヘルスケア」という価値を海外市場にも展開することが,競争優位につながるのではないかと考察する.