講演情報

[PP1-3]手技を完結させるラストワンマイル~100年の技能が、次世代の医療を加速させる~

本田 宏志 (㈱ニチオン)
1911年の創業以来,弊社は耳鼻咽喉科器械のパイオニアとして,職人の伝統技能を礎に外科手術の発展を支えてきました.私が先代や熟練職人から受け継いだのは,単なる道具の製法ではなく,術者の感覚を先端へ届ける伝達の極意です.
耳鼻科器械において,器具はしばしば棒に例えられます.同じように指でつまんでも,先端から返るフィードバックは,物理的な振動特性やモーメントによって劇的に変化します.太い棒は安定しますが繊細な響きを打ち消し,細い棒はしなりを生む一方で,指先の微細な震えを増幅させる効果をもたらします.精密な音叉の製造にも通ずるこの質量と剛性の黄金比こそが,数値化できないしなりや切れ味の正体であり,術者の指先の延長としての“響きの質”を決定づけるのです.
現在,低侵襲手術(MIS)の台頭により,器具にはさらなる細径化が求められています.弊社が外科医と共同開発した2mm径のインストゥルメンツは,この伝統的な振動制御の知見を現代のニーズに結びつけた成果です.この匠の技を「商」の力で世界へ届けるべく,私はこれまで国際会議での啓蒙や,国のプロジェクトを通じた日本独自の繊細な手技の発信に尽力してきました.欧米でのハンズオンイベントや,国際共同研究の成果をまとめた手技書は,世界的な評価を頂くに至っています.
医療イノベーションの現場は,常に「ニーズかシーズか」という二項対立に直面します.臨床の声に応えるだけでは既存の延長に留まり,技術の押し付けでは真の課題解決にはなりません.若い世代の皆さんには,スペックを追う前にまず感性を研ぎ澄ませてほしいと願います.私は,代替不能な“この一丁”に商人の覚悟を添えて,治療のラストワンマイルを突破してきました.単に製品を売るのではなく,技術と感性を調和させる伝え方で,そして医・工・商を一つにする共感力をもって,日本の医療を世界という次なるステージへと押し進めていきましょう.