講演情報

[SL1-1]あなたもなれるロボット手術コーディネーター

渡邊 祐介1,2, 沼田 悠希1, 宇山 一朗1 (1.藤田医科大学 先端ロボット・内視鏡手術学講座, 2.北海道大学病院 医療・ヘルスサイエンス研究開発機構)
ロボット支援手術(Robotic-Assisted Surgery: RAS)は,多関節機構鉗子による高い操作自由度に加え,手振れ補正や動作スケーリングといった制御技術,さらに三次元立体視野を統合した手術支援システムである.これにより,従来の内視鏡外科手術において課題とされてきた可動域の制約や視野の平面性,手振れの影響といった制限を補完し,外科医の操作を安定かつ高精度な手技へと変換することが可能となっている.これらの特性を背景に,RASは急速に普及し,現在では新たな標準的治療として位置付けられつつある.また,通信技術の発展に伴い,遠隔手術指導や遠隔手術といった応用が現実化し,医療提供体制に変革をもたらしている.一方で,RASの導入効果を最大化するためには,単なる機器導入にとどまらず,組織全体としての戦略的かつ包括的な運用が不可欠である.
米国では既にロボット支援手術プログラムの概念が確立され,症例数の拡大のみならず,質・安全性・効率性・収益性を同時に最適化するためのガバナンス体制が構築されてきた.近年では,手術動画や機器ログを含む多様なデータを活用したデータ駆動型運用が進み,継続的なパフォーマンス評価と改善サイクルの確立が重視されている.このようなロボット支援手術プログラムの中核を担うのが,ロボット支援手術コーディネータである.米国においては,コーディネータは単なる機器管理者ではなく,臨床・運用・教育を担う横断的専門職として位置付けられている.具体的には,手術スケジュールの最適化,インストゥルメントおよび機器の在庫・保守管理,術中トラブル対応,スタッフ教育およびトレーニングの企画・実施,さらには手術成績のモニタリングと改善活動を担う.加えて,外科医,手術室看護師,臨床工学技士,病院経営部門との連携を通じ,プログラム全体の最適化を推進するハブとして機能している.近年ではその役割はさらに拡張し,標準化された手術セットアップの構築,術者ごとのプレファレンス管理,データ基盤の整備,新規技術導入やプログラム拡張戦略への関与など,より戦略的・経営的な機能が求められている.すなわち,コーディネータは「運用担当者」から「プログラムマネージャー」へと進化しつつある.
日本においてもRASの急速な普及に伴い,症例数の増加とともに運用の複雑性が増大している.
手術時間の短縮,機器稼働率の向上,教育体制の整備に加え,医療経済とのバランスや環境負荷への配慮といった課題への対応が求められている.特に医療機関の経営環境が厳しさを増すなかで,RASを持続可能に運用するためには,データに基づく意思決定と組織的マネジメントの強化が不可欠である.さらに,AI搭載機器の登場や手術動画解析の進展により,術中意思決定支援や技能評価の高度化が進みつつあり,デジタルツインを用いた術前シミュレーションや一部手技の自動化も現実的な展開として検討されている.将来的には,自律性を備えた手術支援技術の臨床応用も視野に入りつつあり,ロボット支援手術はデータとアルゴリズムを基盤とした統合的な手術支援基盤へと進化していく.本講演では,米国におけるロボット支援手術プログラムおよびコーディネータの最新動向を概説し,その役割の変遷と機能を整理する.さらに,日本における現状と課題を踏まえ,今後求められるプログラム運用モデルや専門人材について考察する.ロボット支援手術の現在地を見つめ直し,その運用プログラムとコーディネータの重要性を踏まえ,これからの手術医療の在り方について考察する.