講演情報

[S1-04]反復運動では歩行時のクリアランスが改善しなかった症例
− 脚の各関節イメージを用いた認知運動課題 −

*下市 紘平1、冲田 学1,2 (1. 愛宕病院リハビリテーション部、2. 愛宕病院福島孝徳記念脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)
【はじめに】
反復練習することによって運動は学習・記憶され,無意識でスムーズな運動が獲得される(潮見.2006).しかし,昔からの歩行パターンによりクリアランスが不十分な歩行が定着した症例に対して,下肢振り出し課題を反復して行っても,クリアランスは改善しなかった.そこで行為の内部観察を行い分析し認知運動課題を行うことで歩行時のクリアランスの改善を認めたため報告する.

【症例紹介】
本症例は脱水後廃用症候群を呈した80歳台女性である.入院30日目の高次脳機能検査ではTrail Making Test Aは102秒, MMSEは18/30点であった.歩行観察ではクリアランスは不十分で,1週間下肢振り出し課題を反復しても,その後の歩行でもクリアランスは改善しなかった.症例の特徴として,下肢の運動認識課題において,他動的に膝,足関節を動かしても膝に対する内省のみで,行為の内部観察においても,足部へ注意が向きにくいという特徴であった.また症例は昔からすり足で歩いていたとのことであった.

【病態解釈】
本症例の行為の内部観察において足部へ注意が向きにくく,下肢振り出し課題を反復しても,運動制御しながら制御対象になる足部の知覚的変化を認知できないため,学習ができないため,歩行時のクリアランスが改善しないと考えた.

【治療課題】
本症例のクリアランス改善に向けて,脚の各関節についての認知過程を考慮した認知運動課題を立案した.膝,足関節に注意を向け運動覚の細分化の獲得を目的に,座位にて下肢を他動的に動かし,どこの関節が動いたか,動いた距離の比較を行う課題を実施した.また目標物の高さに対して予測し正しく足関節を背屈することができることを目的に,板に対してつま先を乗せる課題を実施し,前提として板の高さを伝え,イメージしてもらうように実施した.同様の課題を立位でも実施した.

【結果と考察】
課題後35日目の機能的バランス評価は41→50点に向上した.下肢運動課題では,膝・足関節の複合運動であっても,足部の変化に気づくことが可能となった.歩行観察でも,クリアランスは改善し,10m歩行では16.3→13.2秒,29→24歩と歩行速度も向上し歩数も減少しクリアランスが改善した歩行が定着した.反復練習で改善できなかったクリアランスが認知運動課題により改善した.

【倫理的配慮】
発表に関し口頭及び書面で説明し,同意を得た.

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