講演情報

[S1-05]運動の予測と実行の差異を学習することで歩行が回復した失調症例

*羽方 裕二郎1、田島 健太朗1,2、渡辺 大晴1、沖田 学1,2 (1. 愛宕病院リハビリテーション部、2. 福島孝徳記念脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)
【はじめに】
運動学習における内部モデルの生成と活用は,運動の効率性に重要な役割を果たしている(淺間,2010).今回,左橋梗塞後に失調症状を呈した症例に対し,運動の予測と実行の差異を調整することにより運動学習を促進し,歩行能力が向上したため報告する.

【症例紹介】
症例は,左橋梗塞後3週間経過して転院してきた70歳台女性である.右下肢の身体機能は,Br.stageⅤで中等度の感覚障害と失調症状を認めた.歩行は4点杖軽介助レベルで,右立脚相で支持性低下を認め,遊脚相で下肢の振り出し位置にばらつきがあり,協調的な振り出しが困難であった.内省として「右足が重い,思ったところに足がいかない」であった.実際に立脚時の膝伸展による踏み込みや振り出しの距離や協調性の違いを見て予測させることで認識し,修正することが可能であった.認知機能は,MMSE23/30点であり,そのほか注意機能障害などを認めた.

【病態解釈と治療課題】
病態として,自身で立脚時の膝伸展や振り出しの距離や協調性を予測して実行・修正することができないことにより力量調節が困難となり,運動制御が拙劣となり失調性歩行を呈したと考えた.そのため,効率的な身体運動や修正ができず運動学習に影響を及ぼしており,内部モデルの再構築が必要と解釈した.治療課題として,振り出し幅の認識や筋出力を調整する目的で目標物に対する足のリーチ課題,立位で踵部に置いたスポンジに対し,“ぐっと”踏み込むことで膝伸展機構が働くように,“ふわ~っと”振り出すことで緩やかなheel offを行えるように実施した.また,視覚的・身体的な感覚入力を反復させることで運動学習を促した.

【結果】
介入4ヶ月後の10m歩行は,4点杖+軽介助からフリーハンド見守りで可能となり,努力歩行では46.38秒から11.12秒となった.歩行時の下肢振り出し時の内省として,「軽くだせるようになりました」と歩行を楽に感じるようになっていた.症例は,T字杖歩行自立レベルとなり退院となった.

【考察】
運動の予測と実行の差異を調整できるようになったことで運動学習を促進させ,歩行能力の向上に繋がったと考えた.一方で失調症状は残存しており,努力歩行時に下肢振り出しに伴う出力調整に難点が残った.

【倫理的配慮,説明と同意】
対象者から発表について説明し同意を得た.個人情報保護の観点から匿名性に配慮をした.

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