講演情報
[S1-07]脳卒中後、下肢クリアランス不良を認めた症例の経験の変化とその解釈
− 経験の言語を考慮した訓練を選択して −
*山本 航大1、坂本 隆徳1 (1. 医療法人紅萌会 福山記念病院)
【はじめに】
行為の回復のため、認知過程を活性化させる訓練の選択の手続きは重要であり、患者の言語から意識経験を分析する必要がある。ペルフェッティ(2012)は意識経験に関する記述を「客観的言語」「主観的言語」「経験の言語」に区分することを提案し、経験をさらに感覚・認知・情動的経験に分類している。今回、経験の言語や経験の種類を考慮して訓練を選択・介入したため報告する。
【症例紹介】
脳梗塞(右頭頂葉)後に左不全片麻痺(上下肢Brs.Ⅲ)を呈した80歳代男性。認知機能低下はないが、軽度左半側空間無視を認めた。左上下肢に軽度感覚障害と上腕二頭筋の筋緊張亢進を認め、肘関節伸展MAS3であった。歩行速度は0.38m/sで1本杖にて自立していたが、上腕二頭筋の筋緊張亢進に伴う体幹の前傾が見られ、左下肢遊脚期に足尖が床と接触し躓く場面が見られた。
【観察―意識経験と経験の言語―】
症例は「左足に力がつけば引っかからない」と記述し、下肢筋力向上を認めたが改善せず、他の要因を探索していた。そして、療法士が症例の左上肢を介助した歩行では躓きがなかった経験の後に「この手が邪魔してくる」「肩が硬い」「体が引っ張られる」と記述するようになった。また、左肩関節の運動を実際より過大に知覚し、左上肢の空間把握ができなかったが、左手の位置を問う課題後は歩行の改善を認めた。
【経験の解釈と仮説】
上腕二頭筋の筋緊張亢進が「肩が硬い」感覚的経験、体幹前傾を「体が引っ張られる」認知的経験、躓きを認めたことが「手が邪魔してくる」情動的経験になったと考えた。左手の空間課題を行い、歩行中の左上腕二頭筋の筋緊張亢進と体幹の前傾が軽減することで、下肢クリアランスが改善し、症例の経験も改変されると考えた。
【訓練】
タブレットによる左手の空間課題を1回20分、約1週間実施した。
【結果】
足尖の床との接触は消失し、歩行速度は0.41m/sとなった。筋緊張は肘関節伸展MAS2となり、歩行中も軽減し、躓きに関する発言から「左足が引っ掛からない」「手がついてくるようになった」と記述が変化した。
【考察】
患者の経験を経験の言語から解釈し訓練を選択することで、改善に寄与する可能性が示唆された。症例が記述しなかった内容や言葉の量、重みづけの分析をすることでさらに意識経験の解釈が可能になると考える。
【説明と同意】
本発表の趣旨を説明し書面にて同意を得た。
行為の回復のため、認知過程を活性化させる訓練の選択の手続きは重要であり、患者の言語から意識経験を分析する必要がある。ペルフェッティ(2012)は意識経験に関する記述を「客観的言語」「主観的言語」「経験の言語」に区分することを提案し、経験をさらに感覚・認知・情動的経験に分類している。今回、経験の言語や経験の種類を考慮して訓練を選択・介入したため報告する。
【症例紹介】
脳梗塞(右頭頂葉)後に左不全片麻痺(上下肢Brs.Ⅲ)を呈した80歳代男性。認知機能低下はないが、軽度左半側空間無視を認めた。左上下肢に軽度感覚障害と上腕二頭筋の筋緊張亢進を認め、肘関節伸展MAS3であった。歩行速度は0.38m/sで1本杖にて自立していたが、上腕二頭筋の筋緊張亢進に伴う体幹の前傾が見られ、左下肢遊脚期に足尖が床と接触し躓く場面が見られた。
【観察―意識経験と経験の言語―】
症例は「左足に力がつけば引っかからない」と記述し、下肢筋力向上を認めたが改善せず、他の要因を探索していた。そして、療法士が症例の左上肢を介助した歩行では躓きがなかった経験の後に「この手が邪魔してくる」「肩が硬い」「体が引っ張られる」と記述するようになった。また、左肩関節の運動を実際より過大に知覚し、左上肢の空間把握ができなかったが、左手の位置を問う課題後は歩行の改善を認めた。
【経験の解釈と仮説】
上腕二頭筋の筋緊張亢進が「肩が硬い」感覚的経験、体幹前傾を「体が引っ張られる」認知的経験、躓きを認めたことが「手が邪魔してくる」情動的経験になったと考えた。左手の空間課題を行い、歩行中の左上腕二頭筋の筋緊張亢進と体幹の前傾が軽減することで、下肢クリアランスが改善し、症例の経験も改変されると考えた。
【訓練】
タブレットによる左手の空間課題を1回20分、約1週間実施した。
【結果】
足尖の床との接触は消失し、歩行速度は0.41m/sとなった。筋緊張は肘関節伸展MAS2となり、歩行中も軽減し、躓きに関する発言から「左足が引っ掛からない」「手がついてくるようになった」と記述が変化した。
【考察】
患者の経験を経験の言語から解釈し訓練を選択することで、改善に寄与する可能性が示唆された。症例が記述しなかった内容や言葉の量、重みづけの分析をすることでさらに意識経験の解釈が可能になると考える。
【説明と同意】
本発表の趣旨を説明し書面にて同意を得た。
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