講演情報

[S2-04]馴染みのある行為を通した痺れに対する介入の試み
− 病前の身体状況に着目することで行為イメージが喚起された一症例 −

*寺田 萌1、藤原 瑶平1、石橋 凜太郎1、市村 幸盛1 (1. 村田病院)
【はじめに】
行為のシミュレーションは,自己意識や予測など内的イメージの変化をもたらすと考えられている.今回,脳卒中後に痺れを呈した症例に対して,病前の身体状況に着目しペンを使用する行為を通して介入を実施したところ,良好な結果を得たため報告する.

【症例】
左橋出血を発症した40歳代の両利き男性.発症4週目のBRSは右上肢手指Ⅴ,感覚は表在深部ともに中等度鈍麻で,安静時から生じる強い痺れについて「輪ゴムをきつく巻かれた感じ」と記述した.STEFは37点であった.接触や空間課題によって感覚情報の識別能力は向上するがつまみ動作は困難で,痺れの変化は乏しかった.一方,病前の趣味であったボールペン画については,筆圧の弱さを認めたが,他の対象物と比較してペンを把持する際には痺れの軽減を認めた.また,昔は大きいペンだこがあったとのエピソードから,小さく丸めたティッシュペーパーをペンだこがあったとされる中指末節の示指側側面につけると,さらに痺れが軽減し「昔の感じが思い出せる」と主観的な持ちやすさや筆圧が向上した.

【病態解釈と介入方針】
大矢(2024)は,運動イメージ課題においてかつて経験した固有の作業経験を用いることの有効性を報告している.ペンを使用する行為は症例にとって馴染みが深いため,目的のない対象物の操作とは異なり鮮明な病前の行為イメージを有していると推察された.さらに,ペンだこがある状態では,より病前に近い行為イメージを喚起することとなり予測と結果の比較照合がしやすいために,感覚ゲーティング(関,2012)も作用して痺れの軽減に伴う運動面の変化が得やすい状態になると考えた.ペンだこによる病前の身体状況の再現は症例がペンを使用する行為を行う上で重要な要素であると考え,ペンだこのサイズや装着有無について症例と共に検討しながら,なぞり書きや写し書きなどの直接練習を1日1時間,3週間実施した.

【結果】
手指の痺れについては「指サックをはめた感じ」と介入前と比較して軽減し,STEFは53点へ向上した.描画は,運筆が滑らかになり筆圧の向上を認めた.

【考察】
症例にとって馴染み深かったペンを使用する行為を通して得られた痺れの改善は,模擬的ペンだこがより精緻な行為のシミュレーションの喚起を可能にした結果であると考えられた.

【倫理的配慮(説明と同意)】
発表に関して症例に口頭で説明し,同意を得た.

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