講演情報

[S3-05]ASD傾向がある児童に対する即時記憶活性化に向けた介入

*志比川 亮1 (1. 北海道こども発達研究センター)
【はじめに】
今回ASD傾向が認められ,約束をしても忘れてしまう,学校では持ち物の紛失や忘れ物をしてしまうといった日常生活における困り感を抱えた一症例に対して介入する機会を得たため経過を報告する.

【症例紹介】
8歳男児.診断名なし.ご家族主訴は集団遊びで周りの友達の気持ちを考えられるようになってほしい.事実を正しく振り返ることができてほしいと聞かれた.会話では内容のつながりが少なく,自他の発言を混同して記憶している様子が認められた.小学校では持ち物紛失や忘れ物が認められた.数唱では順唱5桁,逆唱3桁であった.WISC‐ⅤではFSIQ110,VCI108,VSI112,FRI 103,WMI 97,PSI 91と,WMIとPSIにて年齢平均よりやや下との結果であった.心の理論課題では6歳相当の信念理解は可能であった.TMT‐J ではPartA65秒,誤反応1回,鉛筆離し2回.PartB165秒,誤反応0回,鉛筆離し5回でありタイム遅延と鉛筆離しが頻回に認められた.

【病態解釈および治療仮説】
本児は会話のような即時的判断を求められる場面にて自己と他者の発言を混同して記憶していることから認知過程における注意,記憶,判断の過程でエラーが生じ,即時記憶にて齟齬が生じていると考えた.自己や他者の言動に適切に注意を向ける経験や,自己と他者の言動,行動を切り分け記憶する課題を実施することで,注意,記憶,判断の過程におけるエラーが解消し,即時記憶レベルでの事実誤認が減少すると仮定した.

【治療介入と結果】
課題①視覚と聴覚記憶の活性化を目的に,人物写真4枚と『座る』等の動作を示した絵カード4枚を使用し口頭で伝えられた通りカードを並べる課題.課題②聴覚記憶活性化を目的に,テーマに沿って互いに質問しあい,自他の考えとテーマの想起を求める課題を実施.数唱では順唱6桁,逆唱5桁が可能となった.TMT‐JではPartA51秒,誤反応0回,鉛筆離し0回.PartB87秒,誤反応0回,鉛筆離し1回であった.会話では自他の発言が切り分けて記憶できるようになった.忘れ物や物の紛失は減少が認められた.

【考察】
課題により,注意機能の活性化が図れたことで,即時記憶活性化につながり,会話内における齟齬減少に至ったと考察する.

【倫理的配慮,説明と同意】
発表に際しプライバシー保護について保護者に書面にて説明し同意を得た.

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