講演情報

[S3-06]三叉神経障害により咀嚼機能低下を呈した症例に対する急性期介入

*木川田 雅子1、稲川 良2 (1. 東北医科薬科大学病院、2. 水戸メディカルカレッジ)
【はじめに】
脳腫瘍摘出後,三叉神経障害による顔面・口腔の感覚障害により咀嚼機能低下を呈した症例に,術後より認知課題を導入した結果,機能改善が得られたため報告する.

【症例】
60代,女性,右利き. X年Y月Z日頭痛,Z+5日右眼痛出現,Z+60日右海綿静脈洞部脳腫瘍の診断で当院入院となり,Z+62日頭蓋内腫瘍摘出術を施行した.術前の嚥下機能,口腔運動機能に問題はなく,認知機能も概ね良好であった.術後,外転神経麻痺,三叉神経障害を呈し,右頬,上下顎,舌の感覚障害を認めた.口腔運動は右頬,舌の痺れに注意が向きやすく努力的であったが範囲は保たれていた.食形態は,術後1日目に嚥下調整食2-2,水分とろみなしより再開,術後4日目に嚥下調整食3へ変更したが,右側は「噛んでいる気がしない」と内省した.その他,MMSE28/30点,FAB12/18点と前頭葉機能の低下を認めた.

【病態解釈】
三叉神経障害による右頬,上下顎,舌の運動覚,触圧覚の変容により,食塊形成不全が生じ,運動主体感に低下を来したと考えた.そこで,舌の正確な位置情報について視覚と体性感覚の情報照合を導き,運動学習の促進を図った.

【治療介入と結果】
術後2日目より9日間,各20分の訓練を実施した.舌の体性感覚地図は,舌尖への接触部位の誤りに対し修正が困難であった.また,実施時,開口制限や接触刺激に対する舌の筋緊張亢進を認めた.そこで,現症と本来の咀嚼機能を共有,比較した上で,鏡を用いて視覚と体性感覚の位置情報の照合を促し,再度課題を施行すると正答した.また,開口範囲の拡大を認め,舌の安定性も向上した.結果,術後11日目に嚥下調整食4までの経口摂取が可能となった.

【考察】
体性感覚情報の変容により咀嚼機能低下を呈した症例に対し,認知課題を施行した.結果,視覚情報により正確な舌の位置感覚を補償したことで一時的に痺れが減退され,体性感覚情報を有した運動予測が更新し,運動学習,運動主体感の改善に繋がったと考えた.以上より,体性感覚と異種感覚の情報照合を目指した認知課題が,早期経口摂取の確立に貢献したと考える.また,術後早期より運動学習における知識や患者の経験を共有する過程は,運動学習の促進に重要と考えた.

【倫理的配慮】
本発表にあたり個人情報とプライバシーの保護に配慮し,症例より同意を得た.

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