講演情報
[S4-07]認知機能障害を認める慢性疼痛患者の不定愁訴に共同的な日記の作成が奏功した1例
− 受傷前と現状の認識に乖離がみられた症例 −
*矢野 恵夢1、石垣 智也2、仲西 朝美1、奥埜 博之1 (1. 摂南総合病院リハビリテーション科、2. 名古屋学院大学リハビリテーション学部 理学療法学科)
【はじめに】
認知機能障害を有する慢性疼痛患者への対応は難渋することが多く,リハビリテーションに関するエビデンスは不足している.今回,認知機能障害と慢性疼痛が複合した不定愁訴に対し,共同的な日記の作成が奏功した症例を経験した.本報告の目的は,本症例の病態解釈と共同的な日記の作成の有効性を考察することである.
【症例紹介】
症例は第3腰椎圧迫骨折(受傷機転不明)の80歳代女性であり,疼痛のため病棟では歩行困難であった.受傷前より認知症(発症時期不明)を有すものの独居生活が可能であり,自身は健康だと自負していた.また,家族や来歴を語る一方で,身体へ意識を向けると疼痛が増悪し希死念慮を訴えた.さらに,現状と受傷前の健康な認識が乖離している状況を嘆き,介入は中断を繰り返した.
【評価・病態解釈】
入院時点で急性炎症を示す所見は認めなかった.理学療法評価は断続的に14〜63病日にかけて実施し,MMSE 16点で見当識や短期記憶障害を示した.疼痛は再現性がなく対話で増強した.さらに,家族から施設退院を勧められるが受傷前の身体認識を投射し,息子宅への退院を主張した.これらにより認知機能障害が現状認識を困難にし,慢性疼痛が複雑化される状態にあると解釈した.
【介入と結果】
疼痛日記は認知の再構成を促すとされている.そこで,症例と担当療法士で共同的に日記を作成した.内容は4項目(日付・疼痛部位・強度・その他)とし,その他は家族との関わりを記した.介入は64〜85病日まで行い,当日分と過去の日記を比較し,現状理解を促す目的で対話を行なった.75病日以降,現状認識が是正され不定愁訴は軽減し,83病日で歩行器歩行自立となった.これに伴い,退院に関する発言に変化を認め,自ら施設退院を決断した.
【考察】
共同的な日記の作成は,認知機能障害から現状認識が困難な慢性疼痛患者に有効な関わりとなり得る.本症例は家族や他者を重んじる特性があり,現状認識をより阻害し病態を複雑化したと考える.そのため,症例が受け入れやすい他者(療法士)と共同的に日記を作成することで,疼痛経験の客体化を経て自己の現状認識を促し,不定愁訴の軽減に寄与した可能性がある.
【倫理的配慮】
本報告に際し,個人情報の保護とプライバシーに配慮し,症例の状態に合わせて可能な限り説明を行なった後に,代諾者(家族)も含めて口頭および書面にて同意を得た.
認知機能障害を有する慢性疼痛患者への対応は難渋することが多く,リハビリテーションに関するエビデンスは不足している.今回,認知機能障害と慢性疼痛が複合した不定愁訴に対し,共同的な日記の作成が奏功した症例を経験した.本報告の目的は,本症例の病態解釈と共同的な日記の作成の有効性を考察することである.
【症例紹介】
症例は第3腰椎圧迫骨折(受傷機転不明)の80歳代女性であり,疼痛のため病棟では歩行困難であった.受傷前より認知症(発症時期不明)を有すものの独居生活が可能であり,自身は健康だと自負していた.また,家族や来歴を語る一方で,身体へ意識を向けると疼痛が増悪し希死念慮を訴えた.さらに,現状と受傷前の健康な認識が乖離している状況を嘆き,介入は中断を繰り返した.
【評価・病態解釈】
入院時点で急性炎症を示す所見は認めなかった.理学療法評価は断続的に14〜63病日にかけて実施し,MMSE 16点で見当識や短期記憶障害を示した.疼痛は再現性がなく対話で増強した.さらに,家族から施設退院を勧められるが受傷前の身体認識を投射し,息子宅への退院を主張した.これらにより認知機能障害が現状認識を困難にし,慢性疼痛が複雑化される状態にあると解釈した.
【介入と結果】
疼痛日記は認知の再構成を促すとされている.そこで,症例と担当療法士で共同的に日記を作成した.内容は4項目(日付・疼痛部位・強度・その他)とし,その他は家族との関わりを記した.介入は64〜85病日まで行い,当日分と過去の日記を比較し,現状理解を促す目的で対話を行なった.75病日以降,現状認識が是正され不定愁訴は軽減し,83病日で歩行器歩行自立となった.これに伴い,退院に関する発言に変化を認め,自ら施設退院を決断した.
【考察】
共同的な日記の作成は,認知機能障害から現状認識が困難な慢性疼痛患者に有効な関わりとなり得る.本症例は家族や他者を重んじる特性があり,現状認識をより阻害し病態を複雑化したと考える.そのため,症例が受け入れやすい他者(療法士)と共同的に日記を作成することで,疼痛経験の客体化を経て自己の現状認識を促し,不定愁訴の軽減に寄与した可能性がある.
【倫理的配慮】
本報告に際し,個人情報の保護とプライバシーに配慮し,症例の状態に合わせて可能な限り説明を行なった後に,代諾者(家族)も含めて口頭および書面にて同意を得た.
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