講演情報

[S5-01]失行症の教育的アプローチで日常生活や学業に改善を認めた頭部外傷の1症例報告

*森木 良平1、郷胡 佑輔1、福田 俊樹1、唐沢 彰太1、鶴埜 益巳1,2 (1. 脳梗塞リハビリセンター、2. 東京有明医療大学)
【目的】
当施設は関連法規を順守して医療・介護保険外で脳卒中生活期患者を中心に,外来でリハビリサービスを提供する.今回,1年以上経過した頭部外傷で,希望する患側機能の改善を得た1症例について,カルテの後方視的観察から特徴が確認されたため報告する.

【症例紹介】
症例は10歳代の男性で,X年11月に交通事故でA病院へ救急搬送,上記診断で頭蓋内血腫除去術を実施,人工呼吸管理から離脱し,X+1年1月にB病院回復期病棟に転院,概ね日常生活が自立し4月に自宅退院した.退院後も右片麻痺や高次脳機能障害は残存したため,B病院の外来等で週4回リハビリを行いつつ,上記の希望で当社の利用に至った.

【病態解釈】
X+2年1月下旬の初回時,改善を希望する食事動作や歩行の三人称と一人称観察では,失行症の特徴である触覚の解離,また概念と構成の解離を認め,自覚のない錯行為として省略や代償,緩慢化が確認された.続く評価で様々な行為で健側が患側を補助しない状況や健側各関節の他動運動への適応の困難さ,指示による自動運動の困難さを認め,特徴がさらに明確となった.病後の自覚に基づく運動制御の更新を企図し,タブレットを用いて上肢の視覚-体性感覚の変換(解読)による評価的訓練を行った.結果,患側肩関節の自動運動の改善とその自覚を認め,週2回の継続的な訓練を開始した.

【経過】
当初,タブレットを軸に上肢近位の自動運動の改善を図り,得られた内容を基に行為間比較を行って健側による日常の行為の効率性が改善することで,かかる時間の短縮が図られた.下肢でも不安定板を軸に行為間比較を進めて歩行の調整が可能となり,スピードの向上も図られた.それら改善の自覚を応用して患側を中心とするアプローチへと進めた.X+2年6月末の時点で,実用性のある屋外歩行,患側上肢の日常生活動作や学業に必要な道具操作への参画,高校の講義履修や公共交通機関での通学が可能な高次脳機能障害の状態となった.

【考察】
経過より視覚-体性感覚の変換による触覚の解離の自覚の積み重ねと,それに基づく錯行為の補正が本人の病後の自覚を促し,その後の改善につながったと考える.そのため,少なくとも本症例にはPerfettiらが体系化した失行症の教育的アプローチの有効性が示唆された.

【倫理的配慮(説明と同意)】
本発表に関する説明を書面にて行い,同意を得た.

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