講演情報

[S5-05]他者の手から自分の手への身体認識の過程:被殻出血による身体失認患者

*沖田 かおる1、松村 智宏1,2、南場 みずき1、藤澤 慎哉1、石川 翔太郎1、西山 弘将1、沖田 学1,2 (1. 愛宕病院 リハビリテーション部、2. 愛宕病院 福島孝徳記念脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)
【はじめに】
左側の感覚が認識できず,動かない自身の手を「他者の手」と認識し左手に触ることを避けていた症例が「自分の手」を認識した過程を報告する.

【症例紹介】
症例はX日に右被殻出血を発症し開頭血腫除去術が施行された80歳台の女性である.頚部は右回旋し右共同偏視を認め眼球運動は見られなかった.左側BRSは上肢手指Ⅰ,下肢Ⅱ,感覚は表在深部ともに鈍麻で手指は脱失していた.Pusher症候群を呈しADLは全介助を要した.X+3週頃より「(左手で)グーパーできる」「歩ける」と病識低下を窺わせる発言が聞かれ,X+3か月頃より「お父さんの手」「この気持ち悪いのを除けて」等と発言し左手に触れようとしなかった.左手に対する質問には閉口し,作話様の表現をした.左手指の運動指示には右手指を動かす様子が観察された.

【病態解釈および経過】
症例は身体への視覚性注意困難や感覚障害により,身体を左右比較できず自己身体知覚が困難となっていた.それを背景に,左側身体の実感(身体保持感)が低下した身体失認に加え,左身体の事実を認識できない病態失認も併発していた.そのため『身体の対称性を認識し左手が「自分の身体」となる』を目標に介入を行った.初期より頚部・体幹の正中位や左上肢手指の認識を促す課題,右手で左上肢手指へのタッチ,端座位練習等を実施した.X+2か月半頃から右手への注視や追視が可能となり,右手の運動範囲内に左手を置き視覚的な注意を促した.また症例と他者と人形との身体部位のマッチング等を実施した.しかし左手への関心は低く「人(家族やセラピスト)の手」「困っていることはない」と発言した.X+6か月より机上で右手の自動介助で左手を動かす課題を追加した.課題追加後3週頃より「私の手」「腕から繋がってる」と発言が変化し,持続的に左手に触れることができ声掛けにより机に上げ下げできた.

【考察】
左手への視覚性注意や右手でのタッチでは「人の手」だったが,右手での自動介助運動により「私の手」へと変化した.右手による動作意図と視覚下で動かされている左手の動作結果,さらに左側の肩や肘の運動感覚も統合され「私の手」として認識できたと考えられた.この過程は感覚モダリティと動作意図の統合が身体保持感の形成に重要であることを示している.

【倫理的配慮】
家人に撮影と発表の説明を行い同意を得た.個人情報の匿名性にも留意した.

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