講演情報

[S5-07]右手の不快感を運動性錯行為による違和感と再解釈し治療介入した試み

*北川 優奈1、本田 慎一郎2、玉木 義規3、日下部 洋平4 (1. COCOKARACARE訪問看護リハビリステーション、2. リハ塾SHIN、3. 医療法人社団仁生会 甲南病院、4. 公益財団法人 豊郷病院)
【はじめに】
異常知覚は運動意図と実際の感覚情報との不一致で生じることが示唆されている(片山,2016).今回重度失語症を呈し右手に不快感を訴える症例に対し,当初感覚障害と捉え介入したが改善に至らず,不快感の訴えは運動性錯行為と再考し訓練した結果,不快感の軽減を認めたため報告する.

【症例】
症例は心原性脳塞栓症(左前頭-頭頂領域)発症1年が経過した右利きの70代女性.重度失語症により表出と長文理解が困難であったが,SLTAより単語の聴覚及び視覚理解は良好であった.右上肢の運動麻痺は軽度(BRS上肢・手指Ⅴ)であったが,異種素材の触覚識別課題は正答率2/10であり,他動で手関節橈尺屈を誘導するも強い抵抗感と不随意な肩関節内外旋を認めた.さらに頻りに顔を顰めて右手の不快感を訴え,NRSは 6/10を示し「いたい・しびれる・ひりひり・へんな感じ」の中から「いたい」を選択した.また失行症検査にて模倣障害と道具使用障害を認めた.

【病態解釈】
当初不快感は知覚-運動ループの破綻(Harris,1999:仮説1)により生じたと考え訓練するも改善せず,病態を異種感覚情報の変換障害(Perfetti,1996:仮説2)と再解釈し訓練を行った.

【治療及び経過】
課題1は3種の異種素材による触覚課題を中心に4週間(40分/回)実施した(仮説1).その後,訓練2は①セラピストの肩関節・肘関節の模倣課題(視覚-視覚の解読及び視覚-体性の産生),②道具使用の模倣課題(視覚-体性の産生)を各6週間(40分/回)実施した(仮説2).結果他動運動時の抵抗感と不随意な肩関節内外旋は軽減し,触覚識別の正答率5/10,NRS4/10となり,右手の不快感は「へんな感じ」へ変化した.

【考察】
症例は意図した行為を遂行するために必要な体性感覚情報を運動情報へ適切に変換できない結果,肩関節内外旋の過剰な筋収縮を含めた運動性錯行為が生じたと考える.訓練にて異種感覚情報の統合が図れたことで,今までより意図した動きができる右手が得られ不快感が軽減したと推察する.しかし不快感が消失しなかったことは,近年失行症患者では時間的な視覚-運動情報の統合する能力低下(信迫,2018)が示唆され,行為の時間要素を含む訓練の必要性が考えられ今後の課題とする.

【倫理的配慮】
発表に際し書面にて同意を得た.

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