講演情報

[S6-02]認知神経リハビリテーションの臨床対話を再考する
− 相互行為分析による非言語的資源利用の検討 −

*上田 将吾1、吉田 俊輔2、高木 泰宏3、山中 真司4、加藤 祐一1 (1. 結ノ歩訪問看護ステーション、2. 島根リハビリテーション学院作業療法学科、3. 結ノ歩キッズ、4. デイサービスセンター結ノ歩)
【背景】
認知神経リハビリテーションにおける臨床対話は繰り返し議論されるが、その中心は言語であり、非言語的側面の理解は不十分である。近年、コミュニケーションにおける身体性が注目され、言語は多様な資源の一つと位置づけられる(Mondada, 2016)。本研究では、日常の「あたりまえ」な相互行為に焦点を当てる相互行為分析を用いて臨床対話を再検討する。この手法により、非言語的資源の利用に焦点を当て、臨床実践の一助となる知見の獲得を目指す。

【対象と方法】
訓練場面の動画から、利用者(Cl)の経験に関する対話場面を抽出し、断片を作成した。断片1は脳卒中右片麻痺を呈したClと療法士(Th)との右手掌スポンジ識別課題、断片2は遺伝性痙性対麻痺と診断されたClとThとの左足部移動距離識別課題、断片3は脳卒中右片麻痺と失語症を呈したClとThとの右足底スポンジ識別課題である。相互行為分析(森, 2023他)に基づくトランスクリプトを作成し、音声言語、ジェスチャー、視線に着目して分析した。

【結果と考察】
断片1で、Thの視線は課題提示時に対象部位へ、Clが経験を語る間はClの顔へ向く。Clは「これの沈みやわ」と語りつつ右手をスポンジ上で上下させる。Thが「沈むいうのは手が?」と問うことから、身体動作は言語記述を補完し、Thの理解を促進している。断片2でも、Thの視線はClが語る間はClの顔へ向く。Thの「覚えてられる?」の問いに、Clは手を払う動きとともに「消えてっちゃう」「砂が風にどっか飛んでかされてるみたい」と語り、Thは「どんな感覚?」など認知的・感覚的言語を誘導する質問を続ける。ThはClの語りを現象学的言語と判断し、他の言語記述への誘導を試みていると推察できる。ここで身体動作は言語記述を強化し、Thの理解を補助する。断片3では、Clの身体動作はほぼみられないが、Thは断片の大半でClの顔へ視線を向けた。表情など、身体動作以外の非言語的資源の利用が示唆されるが、詳細は今後の検討課題である。

【結論】
本研究は臨床対話における非言語的資源の利用を明らかにした。相互行為分析を通じ、療法士が「あたりまえ」に行う臨床実践の方法が顕在化され、より効果的な相互行為や患者の意識経験を理解する手法の確立に寄与する可能性が示された。

【倫理的配慮】
動画撮影と利用について説明し同意を得た。匿名性に十分配慮した。

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