講演情報

[S6-06]経験の言語の変化と行為の変化はともに起こるのか

*橋間 葵1 (1. 医療法人文佑会原病院)
【はじめに】
認知神経リハビリテーション(以下、NCR)の実践において、療法士は患者の経験を知るために“患者と話す”。NCRにとって重要な言語は「経験の言語」であり、言語の変化を分析し訓練に活用する。今回、言語の変化が興味深かった2例のパーキンソン病患者の臨床を振り返り、言語の変化は行為の変化とともに起こるのか再考したい。

【事例1】
罹病歴5年、筋強剛・すくみ足が主症状。入院にて約4週間の訓練を経て自宅退院。入院時UPDRSⅢは14点、歩行能力尺度(以下、FAC)は1。退院時UPDRSⅢは11点、FACは4。当初、「体が曲がっていると言われる」と話し、「歩くときどこに体重を乗せていいかわからない」「左足はロボット」という言語を経て、「股関節を動かされると第1工程・第2工程がある」という比喩が出現し、退院前は「歩いていて体重をここに載せたらいいなと言う感じはわかる」「股関節を動かされても第1工程・第2工程はなく一体感がある」という言語へ変化した。

【事例2】
罹病歴5年、筋強剛・ピサ症候群・すくみ足が主症状。入院にて約3週間の訓練を経て自宅退院。入院時MDS-UPDRSⅢは46点、FACは1。退院時MDS-UPDRSⅢは19点、FACは4。当初、「自分で曲がっていることに気がつかない」と語り、「骨盤の実態がない」と告白し、「頭の中に暗闇がある」「身体の感覚が頭に届かない」と吐露した時期を経て、「骨盤が水クラゲのようです」と骨盤に言及し、退院時には「横になると骨盤が水を得た魚のように解き放たれる」と筋強剛の変化を表す言語が出現した。

【言語と行為の変化】
事例の経験の言語は、他者視点の身体経験の言語から始まり、身体の異変を表す時期を経て、制御可能で変化がわかる身体経験の言語へと変わった。両事例とも言語の変化と同時に、立位姿勢や歩行能力の改善を認めた。

【考察】
患者の経験の動きに沿って思考を進めるときに初めて、回復へと向けた身体と脳の再組織化が行われる(稲垣,2012)。患者が新しい経験を動かしているか否かは、患者の語る言語と身体の変化で判断可能と考えている。「わかる」は制御方法の理解、「一体感」は意図と結果の一致、「解き放たれる」は時間体験を表す言語であるとするなら、言語と行為の変化はともに起こったと考えられる。

【倫理的配慮、説明と同意】
本発表に関し、原病院倫理委員会の承認を得た。

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