講演情報

[SP-01]ロボットは未来の夢を見るのか

*久保田 直行1 (1. 東京都立大学)
近年,デジタル化が進む中で人間の動作解析に関する様々な手法が提案されているが,それらの多くは物体や環境との関係性を扱っていないミクロレベルでの力学的な解析であり,物理的な身体動作そのものにフォーカスされている.一方,歩行や食事など,マクロレベルでの人間の行動認識に関する手法も提案されているが,それらの多くは事前に決められた複数の行動間の差異の認識であり,行動そのものが,どの程度,うまくできているかの評価は行われておらず,また,物体や環境とのリアルな関係性も認識されていない.リハビリテーションは,身体内感の差異を含む身体と環境や物体との生々しいリアルな関係を徐々に構築し,未来の自分の行為をシミュレートしつつ,今の「できる」を少しずつ育むことである.つまり,リハビリテーションの現場では,ミクロとマクロを繋ぐメゾレベルでのインタラクションを対象とした解析が必要となる.身体と環境や物体とのリアルな関係の解析には,知覚と行為の循環に基づく世界内身体の形成とその知覚に関する情報から行為の生成と,逆に知覚情報をコヒーレントなものにする行為の調整という知覚と行為のカップリングが重要になる.また,シミュレーションを駆動するには,マクロレベルにある合目的的な行動に対する意図情報に基づくインテンショナルダイナミクスとミクロレベルでの神経筋骨格系の身体運動情報に基づくフィジカルダイナミクスが必要となる.

 物理空間を仮想空間に再現するデジタルツインに対し,トポロジカルツインは,現実世界の「構造」や「関係性」を仮想空間に構成・再現し,シミュレーションや解析を行うために用いられる.ここで,構成とは,文字通り,構造を生成することであり,情報に構造や関係を与えることである.したがって,デジタルツインは,シミュレーションを行う上でのプラットフォームとなり,トポロジカルツインはシミュレーションを駆動するための変数やデータ間の構造や関係性を記述する.本研究では,マクロレベルにおいて,知識やスキルに関するナレッジグラフを生成し,組込むナレッジエンベッディングを行い,ミクロレベルでは,筋骨格モデルを用いたシミュレーションに基づくユーザモデリングを行う.また,メゾレベルでは,インタラクションビルディングに基づく行為の解析を行い,このようなミクロ-メゾ-マクロループを駆動するためのマルチスコピックな方法論を提案してきた.本講演では,まず,ブロックデザインテストを例に,行為の解析に関する方法論を紹介する.次に,デジタルツインとトポロジカルツインを用いたシミュレーション技術について紹介し,ロボットを用いた高齢者の見守り支援やリハビリテーションへの応用事例について紹介する.ロボットを安全に用いるためには,異なる環境条件によりシミュレーションを繰り返しながら,起こりうる様々な未来を予測し,リスク評価を行い,その結果をフィードバックすることにより,事故を未然に防ぐための学習ができる.我々もまた,様々なシーンをシミュレートし,起こりうる未来を予測する.対人関係であれば,メタ認知において,自らが持つ他者のソーシャルアイデンティティと,他者が抱いているであろう自己のソーシャルアイデンティティ間のコミュニケーションやインタラクションをシミュレートしつつ,リアルな体験が紡がれていく.近年,インターネットの普及により,文化や言語,人種を越えたコミュニケーションの機会が増え,パーソナルアイデンティティから離れ,他者が望むであろうソーシャルアイデンティティを演じることが多くなった.本当の自分とは? 夢の中では,様々なエピソードを仮想的に体験しているが,パーソナルアイデンティティを演じることができるのか? 夢の中でおこるエピソードは何らかの疑似体験であり,架空の知識や経験をも用いることができる行為のシミュレーションである.ロボットは,環境条件や摂動を変えたシミュレーションを延々と繰り返し,起こりうる未来,起こりえない未来を予測する.最後に,未来への行為のシミュレーションを通してロボットのみる夢について考えてみたい.