講演情報

[SaL-01]歩行とセンス・オブ・エージェンシー

*菊地 豊1 (1. 脳血管研究所 美原記念病院)
朝目覚めて、喉の乾きを潤すために眼の前のコップに手を伸ばす。この何気ない日常的な行為の一場面で、今コップに手を伸ばすという運動を起こしているのは誰か?と問われれば、多くの場合において“それは自分である”と答えるだろう。
 このような“行為を引き起こしているのは自分だ”という行為主体としての自己の感覚をセンスオブエイジェンシー(行為主体感)という(Gallagher,2000)。行為主体感には、自分の運動を自分でコントロールしているという感覚や、運動を引き起こしているのが自分自身であるという帰属感により構成される。行為の結果が自分の意図した結果に一致する場合に行為主体感を感じ、外的刺激による動きと自分自身の動きを区別することができる。
 このような意図と結果の比較照合は感覚運動制御モデルと類似しており、自分の運動を制御するためには、自分の動きの結果を予測し、実際に受け取った感覚フィードバックと照らし合わせて、その予測を確認することが必要となる。この動きの結果を予測について大脳基底核、実際に受け取った感覚フィードバックとの照合には小脳の感覚誤差学習より生成された内部モデルがそれぞれ関わっていると想定されている。
 このように行為主体感の形成において重要な役割を担っている大脳基底核と小脳の障害はどのような行為の障害を引き起こし、それが患者にとってどのような経験となるのか。加えて、標題となっている歩行は、前述したコップに手を伸ばすという運動に対し、目標指向性が低く、自動的で連続的な運動であり特性が異なる。行為主体感から病態解釈を行う上でこのような運動の特性の違いをどのように考慮すべきであろうか。
 本シリーズディスカッションでは、大脳基底核障害と小脳障害のそれぞれ代表疾患であるパーキンソン病と脊髄小脳変性症の歩行を題材に、行為主体感からみた病態解釈を試みたい。

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