講演情報

[SaL-02]手とバインディング

*横山 航太1 (1. 新札幌パウロ病院)
今回のディスカッションのテーマであるバインディングとは「Binding Problem=結び付け問題」のことを指し、結び付け問題とは「脳内で並行に行われる様々な情報処理をどのように統合するか」という脳の謎のことである。例えば、我々が青い四角と赤い丸を見た際に、脳内では「色」「形」「動き」などの特徴を抽出する部位は別々の領域で処理されるが、どのようにして瞬時に青と視覚を1つの対象とし、赤と丸を別の対象として認識するかが結び付け問題である。結び付け問題の説明には多くの説が提案されており、神経細胞の同期発火、選択的注意などがある(詳しくは当セクションの動画をご視聴ください)。視覚情報処理においては、一次視覚野や二次視覚野の時点で特定の刺激に対して同期を変化させ、優先度の高い視覚刺激に対しては興奮性に働き、そうでない情報には抑制性に働くといった情報の取捨選択がされていることがわかっており、これはより優先度の高い情報を高次視覚野に伝えるためであると考えられている(Friesら1997)。また、高次視覚野による情報処理には選択的注意(トップダウン制御)が関与(横澤ら2002)することもわかっており、何に価値をおいて対象物を見るかによって活性化する脳内の領域が変化する。
 結び付け問題に関する研究は視覚情報処理を対象としたものが多い。これらの結果を「手の結び付け問題」にそのまま当てはめて考えるのは短絡的かも知れないが、やはり選択的注意や情報の価値づけは手の訓練においても重要になると考える。認知神経リハの訓練は単なる知覚の再教育ではなく、行為の回復に向けた異種感覚情報変換や多感覚の統合を目的としているため「結び付け」を常に意識して訓練を展開することとなる。しかし、対象者は痙性麻痺や感覚障害を伴っている場合が多く、多感覚の結び付けは極めて難しいため、まずは第1段階の訓練として「視覚」と「触覚」といったバイモーダルな結び付けから始めていくこととなる。つまり、選択的注意をより限局するという手続きをとる。訓練が第2・3段階と進むにつれて結び付けるモダリティを増やしたり、筋出力の調整を要求したりする。これらの結び付ける対象をより適切な難易度で調整していくスキルがセラピストには求められる。今回2名のセラピストに症例を提示していただき、「手の結び付け問題」について理解を深めていく。

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