講演情報

[SaL-03]嚥下とマルチ・センソリー・インテグレーション

*稲川 良1 (1. 水戸メディカルカレッジ)
行為には、視覚、体性感覚、聴覚、嗅覚、味覚といった身体を介したさまざまな感覚モダリティの情報が含まれる。また、それらの情報には、過去の記憶、注意、情動が統合されている。その多感覚統合的な行為の経験は、未来の行為の予測へ影響を与えていくのである。
 マルチセンソリーインテグレーションには、いくつかの法則がある(Stein BE, et al. 2020)。例えば、異なる感覚モダリティ刺激の空間が一致している、あるいは時間が同期している場合に、ニューロンの反応は増強する。反対に、空間的、あるいは時間的に近接していなければ、その反応は抑制される。この法則は、対象の識別や認識、空間知覚、知覚運動協調などの知覚・行動領域でもみられることがわかっている。つまり、マルチセンソリーインテグレーションは多様な行為のパフォーマンスに関わると同時に、単なる感覚の足し算ではないということを理解しておく必要がある。
 「食べる」という行為をみても、味覚野(前部島皮質・前頭弁蓋部)における嗅覚、体性感覚、視覚、聴覚、内臓感覚を含むマルチセンソリーインテグレーションは、摂食行動制御に関与するという(de Araujo IE, et al. 2009)。ペースト食を見た嚥下障害者が「食べる気がしない」、「美味しくない」と訴えるのも、味覚にとどまらない感覚情報の統合が影響しているのではないだろうか。
 症例提示では、脳卒中後遺症者2例を紹介する。1例目は、食形態にかかわらず、食物の取り込みの際「すする」ように捕食した症例である。療法士の「すすらないように」という指示に対して理解は得られたようであったが、修正は困難であった。2例目は、ペースト食の摂取で丸飲みに近い様子がみられた症例である。その内省は、「(食物が)舌にのらない、(舌が)上にも上がらない」であった。
 当日は、2例の病態解釈と訓練の実際を報告する。マルチセンソリーインテグレーションをキーワードに、嚥下の臨床について討議したい。

閲覧にはパスワードが必要です

パスワードは参加登録した方へメール配布しております。