講演情報
[SaL-07]ホムンクルスとプロジェクション
*安藤 努1 (1. 子供の個別発達を育むリハビリテーションセンター陽光会)
90年程前、ペンフィールドらは主に癲癇患者の脳外科手術の際、彼らの大脳皮質を直接的に電気刺激し、それらの反応に基づき脳地図を作った。脳科学におけるホムンクルスの誕生である。この発見がその後の神経科学の発展に与えた功績は計り知れない。他方、近年、特に工学系の技術革新に伴う神経系とりわけ脳の構造やその機能に関する解析技術の進歩には隔世の感がある。昨年、Nature誌に掲載されたGordonらによる論文では、50,000件というMRIのビッグデータを元に緻密な解析の結果、既存のホムンクルスに替わる新たなマッピングが提案された。それによれば、ヒトM1には従来の手、口、足を中心とした効果器領域に加え、其々の間に新たな領域の存在が確認され、それらは相互に強い神経連絡を有し、明確な動作特異性を欠き、手足の動作計画中および体幹動作中に共活性化を認め、目的指向性の認知的制御に重要である神経領域との強い連絡が認められたと報告された。つまり、ヒトM1には2つの行動制御システムが組み合わされており、一つは良く知られた高度に特殊化された付属肢(足、手、口)の精緻な制御の為の効果器固有回路、2つ目は生物全体としての身体制御と行動計画を統合制御する領域である。この領域は特にヒトにおいてその相対的拡大が示唆されており、発話に伴う呼吸調整、道具使用の為の手と体幹、目の動きなどの統合、加えてアロスタシスを維持しながら動作を通じて目的を達成する際の一連の予測的な姿勢、呼吸、心血管系、覚醒(意識)、痛み、情動変化などを可能にし、その結果、行為する身体の制御を担っている。
プロジェクションという言葉には「投影」の他に「予測」という意味がある。ペンフィールドらのホムンクルスはデカルトの思想を映し出した。Gordonらによる新たなホムンクルスは、カント、ヘルムホルツに始まり、Fristonらが提唱する自由エネルギー原理による、脳の基本的な駆動の源を推論とし、予測誤差最小化に向かい続ける動的平衡としての「脳の能動的推論モデル」の流れを予期させるものである。
プロジェクションという言葉には「投影」の他に「予測」という意味がある。ペンフィールドらのホムンクルスはデカルトの思想を映し出した。Gordonらによる新たなホムンクルスは、カント、ヘルムホルツに始まり、Fristonらが提唱する自由エネルギー原理による、脳の基本的な駆動の源を推論とし、予測誤差最小化に向かい続ける動的平衡としての「脳の能動的推論モデル」の流れを予期させるものである。
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