講演情報

[SaL-08]生活行為とエピソード・メモリー

*濵田 裕幸1 (1. 東京大学)
私たちは,スポーツの習熟過程や新たな物品の操作方法を学習する際など,「過去の行為記憶(エピソード・メモリー)」と「遂行する行為」を比較することを経験する.この比較では,過去の経験における運動の類似性と感覚情報の共通点を想起することが,運動プログラムに有用な認知過程を組み込むことに寄与していると推察される.健常者においては,比較・参照の一連の過程は,行為の学習の文脈に依拠しながら自動的に行われていることが示唆されている(Heald et al., Nature. 2021).
 認知神経リハビリテーションでは,「行為間比較」として,過去の行為を想起し,現在の行為との比較を行うこと(行為の誤りの自覚・学習対象の理解)や,認知課題との比較を行うこと(回答に必要な認知過程の活性化)が試みられている.この試みは,介入における有用性が質的研究の中で示されている(Rizzello, Riabilitazione Neurocognitiva. 2013; Marina, Riabilitazione Neurocognitiva. 2014).その一方で,脳損傷を有するリハビリテーション対象者の中には,過去の行為の想起を自発的に行うことが困難な場面に遭遇する.過去の行為の想起が困難な理由として,神経の損傷と神経ネットワークの変化に伴い,想起に必要な認知過程を活性化しづらいことが考えられる.さらに,脳損傷以前と以後における身体と環境の相互作用の差異により,想起対象を適切に特定できないことが疑われる.
 本Series Discussionでは,臨床における過去の行為の想起における障壁を克服するために,症例報告に基づき,2つの視点から議論を試みる.1つ目は,有用な行為を想起するために,どのような想起対象を同定するのかという視点,2つ目は,対象者の来歴におけるどの時点の行為を想起対象とするのかという視点である.これらの議論の中から,臨床における効果的なアプローチを探索する.

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