講演情報

[1R0308-08-01]言語の質的分析

*上田 将吾1 (1. 結ノ歩訪問看護ステーション)
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患者がセラピストに向けて発する言語は、単なる音声ではなく、セラピストに働きかけるための行為である。オースティンが"言語行為"と呼んだように、患者は発話を通して意図を示し、セラピストに対して何らかの行為を遂行している。患者の言語から患者の認知や世界を理解しようとする認知神経リハビリテーションにおいて、この視点は重要である。

しかし私たちセラピストは、患者の発する音声言語を聴き、表情や身振りを見ることはできても、その背後にある意図や目的まで観ているとは限らない。直感的に会話を継続できてしまうが故に、観えていないことに気づきにくい。ここに臨床の現場における「見えないもの」が潜んでいる。

では、どうすれば患者の言語行為を観ることができ、その背後にある意図や目的を理解できるのか。手がかりの一つとして質的分析を紹介したい。質的分析は、数量では捉えにくい人間の営みや経験を、記録と解釈を通じて可視化し、その意味や仕組みを明らかにする方法である。しばしば量的研究と対比されるが、両者は排他的ではなく、研究課題に応じて補完し合う関係にある。

本講演では、質的分析の概要を紹介しつつ、認知神経リハビリテーションの臨床場面をエスノメソドロジー・会話分析の手法で分析した自験例を提示する。臨床場面における発話のタイミングや順序、応答の仕方、非言語的な手がかりを詳細に分析することで、患者の言語行為がいかにして相互行為のなかで遂行され、セラピストがそれをどのように捉え得るのかを検討する。こうした分析は、見落とされがちな患者の主体的な行為としての言語の姿を浮かび上がらせる。

患者の言語に潜む「見えないもの」はいかにして観ることが可能となるのか。本講演では、質的分析、とりわけエスノメソドロジー・会話分析を『見えないものを観る手段』として位置づけ、臨床実践に新たな視点をもたらす可能性について、皆様と考える機会にしたい。