講演情報

[CD-05]見えない恐怖感や注意は姿勢バランスをどう変えるか

*植田 耕造1 (1. JCHO大和郡山病院)
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クリニカルディスカッション「姿勢バランスの見えない病態を観る」において、「恐怖感」と「注意」が姿勢バランスをどのように変化させるか、近年の知見を基に概説する。

高所環境などの姿勢脅威条件下では、重心の後方化、足圧中心動揺の前後方向の振幅の縮小と周波数の増加という“硬直化”が観察される(Adkin AL, 2018)。興味深いことに、この硬直化は恐怖感の有無にかかわらず生じるが、恐怖感を感じた群では意識的制御(身体の動きに注意を向けモニタリングする)の関与により、姿勢バランスがさらに変化することが報告されている(Ellmers TJ, 2022)。すなわち、恐怖感と姿勢バランスの関係を“注意”が媒介している。

注意の向け方による姿勢バランスの変化については多数の報告があり、恐怖感に伴う身体内への注意(内的焦点化)は姿勢動揺の高周波化をもたらすことが知られている(Ellmers TJ, 2022)。一方、我々の研究では、高所環境における姿勢バランスには、意識的制御よりも身体の動揺に注意を向けつつ動揺を随意的に制御しようとする随意的制御の方が類似することを報告している(Suganuma J, 2024)。このように行動や姿勢バランスを変化させる注意の向け方は多様であり、認知課題や運動課題を付加した二重課題や、内的焦点化(internal focus)、遠位・近位の外的焦点化(distal・proximal external focus)、holistic focusなどが報告されている。これらの中から最適な注意操作を選択することにより、姿勢バランスや恐怖感を変化できる可能性がある。実際に、認知課題の付加により注意をそらすことで、姿勢脅威下で生じる意識的な認知的プロセス(注意の焦点や運動処理)や姿勢バランスの変化を減弱できることが示されている(Johnson KJ, 2020. Ellmers TJ, 2021)。

今回は、恐怖感や注意操作による姿勢バランスの変化に関する知見を我々の研究結果も交えて概念的に整理し、臨床における評価や介入に活用できる基盤情報を提供する。