講演情報
[CD-11]転倒を繰り返すパーキンソン病者の見えない病態を観る
*三上 恭平1 (1. 登戸内科・脳神経クリニック)
「神経変性疾患」とは,脳や脊髄などの神経細胞が,様々な理由で退行的に変性し,運動機能や認知機能などが進行性に障害される疾患の総称である.この中でパーキンソン病(PD: Parkinson’s Disease) は,大脳基底核を中心とした神経細胞の脱落によって運動症状と非運動症状を呈する疾患である.しかし,臨床においてPD患者が呈する症状は,大脳基底核の症状だけでは説明できないような非典型的な症状を多く呈する.例えば,PD患者では誤差学習や誤差修正に関わる神経システムは比較的維持されているにもかかわらず,誤差を修正できずに失敗を繰り返す.一部のPD患者では,対象物にリーチする際に一歩届かない位置から手を伸ばしてしまうことがある.さらにこの現象は,一度失敗した後も修正されず,同じような失敗を繰り返す.このような現象を呈するPD患者は,病態失認を呈する患者のように病識や自身の身体状態を理解していないわけでもない.行為を失敗した後に危険性について指摘し本人に確認すると,「なんで手を伸ばしちゃうんだろう」と述べ,手が届かない距離からリーチングしてしまっていることを理解できている.それでは,なぜこのようなことが生じるのか.その一要因として,一部のPD患者では,物体の特性によってリーチング可能距離の見積もりに違いが生じることがある.我々は縦型の手すりではリーチ可能距離を適切に見積もることができるが,横型の手すりになるとリーチしても届かないほど遠方でもリーチ可能であると判断してしまう症例を経験している.つまり,物体特性によってリーチング可能に見えてしまうことがあり,そのような特性をもつ環境では,遠方からリーチングすることで転倒を繰り返してしまうのである.このようにPD患者では,従来の病態生理だけでは説明困難な多様な症状を呈し,同じような失敗を繰り返す.その背景には単に行為を観察しているだけでは見えていない背景病態が関与していることがある.本クリニカルディスカッションでは,転倒を繰り返す自験例を提示しながら把握しにくい現象をどのように捉え,治療に結び付けているかについて提示し,ディスカッションする機会としたい.
