講演情報

[CD-17]重度失語症例に対するコミュニケーション訓練の検証 -思考に内在化された「言語」の運用-

*木川田 雅子1 (1. 東北医科薬科大学病院)
PDFダウンロードPDFダウンロード
今井(2010)は,「言語は知覚(見る・聞く),記憶というほぼ無意識化で行われる行為に自動的に入り込み,推論や意思決定などの思考に影響を与えている」と論じている.これらが相互に作用することで言語は拡張され,コミュニケーション行為は洗練化されていく.

超急性期重度失語症例は,機能解離により外部情報が一時的に遮断され,残存機能を駆使した行為を形成するが,他者との相互作用が創発されずコミュニケーションが破綻する傾向がある.また,受動的注意の機能低下により外部情報の解読が困難なため,課題設定に難渋する.

今回提示する症例は,左中大脳動脈領域の広範な脳梗塞により重度感覚性失語,右半側空間無視を認めた.標準失語症検査(SLTA)は全項目において中止基準に相当した.対話場面での産生言語は新造語ジャルゴンにより意思伝達困難であった.解読は横側頭回損傷による聴覚情報処理障害と一次視覚野損傷による視覚情報処理障害を認め,外部刺激に対する反応は乏しかった.一方で,能動的探索を用いた日常行為は成立し易安かった.そこで,記号抹消課題を呈示し反応を観察した.すると,能動的に記号の意味性を解読し,同定した記号を「線でつなぐ」という行動が観察された.更に,比較照合する行為へ発展し,誤反応に対する修正行為も認められた.その結果,「一緒/違う」の産生言語が誘発された.

今井(2010)は,「言語を運用しながら関係の同一性を見出し,概念を発展させていく」と提言しており,本例も課題の比較照合において言語が運用されていた可能性が示唆される.以上より,超急性期重度失語症例においても,課題遂行時の思考過程に内在化された言語の相乗作用による機能改善が期待されるのではないだろうか.

本ディスカッションでは,本例の言語行為における検証結果に基づいて,「みえない思考と言語」をどうのように捉え,実際のコミュニケーション行為へ展開するか,議題提起する.