講演情報

[EL-03]認知症の“わかりにくさ”を紐解く

*田中 寛之1 (1. 大阪公立大学)
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認知症の現場で支援者が直面する“わかりにくさ”―「伝わらない」「意図が掴めない」と感じる言動は、単なるコミュニケーションの断絶ではなく、認知機能の変化と支援者が持つ期待・解釈との間に生じる意味のズレと思われる。そのズレの背景を神経症候の二重性(陰性・陽性症候)、神経過程と心理過程の共存という構造的理解と、「物事の受け取り方のクセや傾向(trait))」と「そのときの疲れ・場の雰囲気や環境・対人関係などで変動する状態(state)」の相互作用の結果として認知症の言動を解釈できないか示したい。

たとえば”ものとられ妄想”では、記憶力の低下という神経系の課題に加え、自己価値の低下や否定的体験への心理的防衛として「自分は悪くない」という立場を取る意味づけが重なり、「盗られた」という表現として現れることも推測される。このように機能的変化と心理的適応が併存する構造を分けて捉えることなしには、単純な誤認や混乱と片づけてしまい支援機会を失うことになる。そして、その症候は認知症者と周囲の介護者との関係性や居住環境によっても出現頻度や重症度も変わる。

支援者は、言動の背景を確認的に問い直し、受容的フィードバックを返しながら仮説(予測)を柔軟に更新する対話的姿勢を持ち、陰性症候的な能力低下と陽性症候的な表出を区別して評価する。そのうえで環境調整、言葉掛けのタイミング、接し方の工夫などの仕掛けを変え、残存能力を引き出す実践を行うことが良い。こうした理解を多職種・家族と共有し、観察と解釈のズレを縮めることで支援の一貫性を高めることが重要である。

今回、上述の枠組みと臨床的推論のアセスメントと関わりを提示し、認知症ケア・リハビリテーションにおいて“わかりにくさ”を単なる困難ではなく、対象者との協働の契機になるように情報提供したい。