講演情報

[P1-02]“身体の声”を聴くことの困難さ:認知神経リハビリテーションの実践と社会的現実の交差点

*大島 埴生1 (1. 岡山リハビリテーション病院)
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【はじめに】
認知神経リハビリテーション(以下NCR)は、「身体の声を聴く」ことを通じて、運動の意味を再構築し、主体的な身体経験を回復させることを目的とする実践である。その背景には、神経科学、現象学、言語学など多様な学問の統合があり、単なる機能回復を超えた深い臨床的価値を持つ。しかしながら、こうした理念がそのまま臨床現場に実装されることは容易ではない。
【方法】
本発表ではNCRの実践における困難さを、患者側・セラピスト側・社会制度的側面の三層から検討する。先行研究の検討および臨床経験に基づく観察的分析を行い、困難の要因を①患者、②セラピスト、③医療制度・社会的枠組みの三層に分類した。
【結果】
まず、患者の声は一様ではない。たとえば、若年の働き盛りの脳卒中患者においては、「身体の声を聴く」ことよりも、「早く職場に復帰したい」「早く家に帰りたい」といった現実的なニーズが優先されることが少なくなかった。こうした状況では、意味のある運動の再構築よりも、可視的な機能回復やADLの自立が重視される傾向がある。次に、セラピスト側の困難として、NCRの理論的複雑さと学習負荷が挙げられる。多学問的な知識を統合しながら臨床に応用することは容易ではなく、特に臨床経験の浅いセラピストにとってはハードルが高い可能性がある。その結果、よりシンプルでエビデンスの明確な筋力訓練や歩行練習に傾斜する傾向が生まれる。さらに、医療制度や社会的構造もこの困難さに拍車をかけている。その最たるものとして、回復期リハビリテーション病棟で導入されたアウトカム評価の枠組みは、短期間での成果を求める傾向が強く、「身体の声を聴く」ような時間をかけた介入は他者からの理解を得られにくい可能性がある。
【考察】
こうした現実を踏まえたとき、NCRの理論はどのようにあるべきか、NCRの実践はすべての患者に一律に適用すべき技法なのか、それとも患者の価値観や社会的文脈に応じて限定されるべきなのかが問われる。本発表における困難さの記述はある一つの側面に過ぎないため、現場での多様な実践のあり方について議論したい。
【倫理的配慮(説明と同意)】
本発表において個別の事例を扱うことはないため、倫理的配慮に該当する項目はない。