講演情報
[P2-01]虫が集まってくる感覚から身体延長感・感覚の重なりへ―左片麻痺患者における語りの変容の現象学的病態解釈―
*橋間 葵1、稲垣 諭2 (1. 医療法人文佑会原病院、2. 東洋大学文学研究科哲学専攻)
【はじめに】
本報告は、左片麻痺患者の身体感覚の変容過程を継続的に追跡し、語りに現れる現象学的指標を抽出することを通じて、“生きられた身体(Leib)”の変容と再構成について現象学的病態解釈を試みる。
【事例概要】
本事例は、脳卒中後に左上肢・指BRSⅡの重度片麻痺を呈した患者である。著明な痙縮と数値化できない左上肢の疼痛が持続し、「脇に虫が集まるような感じ」などの異常感覚を認め、「腕を切り落としたい」といった嫌悪の語りが出現した。一方で、数ヶ月の経過の中で「身体延長感」や「感覚の重なり」といった語りが新たに現れ、身体の意味づけの変化が観察された。本事例は、病態失認のように障害そのものを否認するのでも身体パレフレニアのように非所属感が中心にあるのでもなく、現象学的な視点からの理解が有効と考えられた。訓練では左右の身体感覚の比較を通じて、感覚の意味づけなどを促した。
【語りと知覚の変容】
入院初期、左上肢は「ぼんやりしている」と語り、身体部位の空間的定位の困難さとともに、Leibとしての現れから脱落していた。外来移行期には、左上肢に対して「脇の下に虫が集まる」といった異物感が語られ、LeibがKörper(物的身体)として対象化され始めた兆候と解釈された。やがて「水風船の中にアイスが入っている」「ピノキオの鼻が伸びるよう」といった多様な比喩が用いられ、左上肢が再びLeibとして意味づけされ直される過程が見られた。最終的には「自分の腕だとわかる」「つながっている気がする」と語られるに至り、身体所有感・運動主体感の再構成がすすんだと捉えた。しかし、身体機能面は左上肢・指BRSⅡのままであった。
【現象学的解釈】
この語りの推移を通じて、単なる神経学的症状としてではなく、Leibの破綻と再構成という現象学的変容が明らかとなった。とくに、左上肢の空間的歪み、異物感、自己からの疎外といった現象は、Leibの喪失過程を示すと同時に、再び志向的・空間的に身体が再構成されていくプロセスを浮き彫りにした。再構成は一様ではなく、部位ごとの差異や「もわんとしている」「まだうすい」などの表現もあり、段階的で揺れを伴うことが確認された。しかし、身体機能の変化と語りとの直接的関連は見出しにくく、語りそのものが病的構造を帯びている可能性も否定できなかった。
【倫理的配慮】
本報告は当院倫理委員会の承認を得た。
本報告は、左片麻痺患者の身体感覚の変容過程を継続的に追跡し、語りに現れる現象学的指標を抽出することを通じて、“生きられた身体(Leib)”の変容と再構成について現象学的病態解釈を試みる。
【事例概要】
本事例は、脳卒中後に左上肢・指BRSⅡの重度片麻痺を呈した患者である。著明な痙縮と数値化できない左上肢の疼痛が持続し、「脇に虫が集まるような感じ」などの異常感覚を認め、「腕を切り落としたい」といった嫌悪の語りが出現した。一方で、数ヶ月の経過の中で「身体延長感」や「感覚の重なり」といった語りが新たに現れ、身体の意味づけの変化が観察された。本事例は、病態失認のように障害そのものを否認するのでも身体パレフレニアのように非所属感が中心にあるのでもなく、現象学的な視点からの理解が有効と考えられた。訓練では左右の身体感覚の比較を通じて、感覚の意味づけなどを促した。
【語りと知覚の変容】
入院初期、左上肢は「ぼんやりしている」と語り、身体部位の空間的定位の困難さとともに、Leibとしての現れから脱落していた。外来移行期には、左上肢に対して「脇の下に虫が集まる」といった異物感が語られ、LeibがKörper(物的身体)として対象化され始めた兆候と解釈された。やがて「水風船の中にアイスが入っている」「ピノキオの鼻が伸びるよう」といった多様な比喩が用いられ、左上肢が再びLeibとして意味づけされ直される過程が見られた。最終的には「自分の腕だとわかる」「つながっている気がする」と語られるに至り、身体所有感・運動主体感の再構成がすすんだと捉えた。しかし、身体機能面は左上肢・指BRSⅡのままであった。
【現象学的解釈】
この語りの推移を通じて、単なる神経学的症状としてではなく、Leibの破綻と再構成という現象学的変容が明らかとなった。とくに、左上肢の空間的歪み、異物感、自己からの疎外といった現象は、Leibの喪失過程を示すと同時に、再び志向的・空間的に身体が再構成されていくプロセスを浮き彫りにした。再構成は一様ではなく、部位ごとの差異や「もわんとしている」「まだうすい」などの表現もあり、段階的で揺れを伴うことが確認された。しかし、身体機能の変化と語りとの直接的関連は見出しにくく、語りそのものが病的構造を帯びている可能性も否定できなかった。
【倫理的配慮】
本報告は当院倫理委員会の承認を得た。
