講演情報

[P2-02]入院中の脳卒中者における上肢経験の変容過程–二症例に基づく比較的アプローチ–

*三枝 信吾1,2、甲斐 匠3、森岡 周1,4 (1. 畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室、2. 東海大学文明研究所、3. 初台リハビリテーション病院回復期支援部、4. 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)
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【はじめに】
 脳卒中者を対象に,上肢の経験過程を比較し,客体化,環境との相互作用,動作戦略について記述する.

【方法】
 回復期病院に入院した脳卒中者2例に対し,上肢に関する半構造化面接を約18日間隔で全6回実施した.分析には,比較的アプローチ(Anki & Lena, 1995)を用いた.A氏は,左被殻出血を呈した40歳台の右利き男性であり,FMA上肢運動が36から57点,感覚が2から12点に推移した(発症45→138日).B氏は,右視床出血を呈した60歳台の右利き男性であり,FMA上肢運動が39から59点,感覚が4から6点に推移した(発症19→112日).

【結果】
 初期では,A氏は「キープとイメージする」,B氏は「グチャッとなるから力を抜く」と語り,行為中の動きを内的にイメージしていた.また,B氏は麻痺側上肢を「聞き分けがない子」と表現した.中期には,A氏は「左手を参考に動かし方を考える」,「生活とリハビリの掴むが同じ」,「コップに水半分なら持ってうがいできる」と語り,動作前後で振り返る戦略への移行や,できる動作を見極め生活に反映していた.一方B氏は,「霜焼けのようなしびれ」,「紙を押さえるだけで破けそう」,「人工物という感覚」と語り,異常知覚の出現,麻痺側上肢と道具との連関の不十分さや客体化を認め,「左手を諦めて右だけで」という代償戦略への移行を思い悩んでいた.後期では,A氏は「生活の時にパッと右手を使っていた」,「保持する感覚が頭から消えた」と語り,生きられた身体の機能が生じ始めていた.これに対しB氏は「痺れるつる硬直する」,「本を持って静かに読めない」,「左手で顎を触るとマジックハンドで触られている」と語り,麻痺側上肢を使い続けるが,環境との繋がりは不安定のまま現前し,さらに二重感覚の不成立を認めた.

【考察】
 2症例は,初期において二元論な身体観に後退した点は共通していたが,その後の展開は対照的であった.この比較から,客観的な運動機能が回復しても,生きられた身体の再出現は保証されないことが示唆された.この背景には,ネガティブな客体化や,生活における上肢と道具および環境の連関の乏しさ,異常知覚の出現,自分の手が自分の手であり対象にもなるといった二重感覚が関与している可能性が考えられた.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 所属機関内の倫理委員会で了承を得た(承認番号:初2024-28)