講演情報

[P2-07]rTMSと主体的な問題解決学習が書字能力再獲得に繋がった一症例

*木村 愛1、赤星 麻衣1、髙橋 真紀1 (1. 福岡みらい病院リハビリテーション科)
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【はじめに】
脳卒中後の慢性期上肢麻痺リハビリテーションでは、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が有効な治療法とされている。本報告では、rTMSで得られた神経可塑性を基盤に、書字困難の背景を自ら認識し、修正を試みる学習を促すことで、動機づけと自発性が高まり、書字再獲得に繋がった症例を示す。

【症例】
70代女性。7年前に左被殻出血を発症し、慢性期上肢麻痺に対してrTMS目的で3週間入院した。rTMSは健側上肢の一次運動野に対し、安静時運動閾値50%を基準とし、刺激強度45%、1Hz、20分間を1日2回、計24回実施した。発症後から書字経験は乏しく、名前をカタカナで書くのがやっとであった。Fugl-Meyer Assessment(FMA)上肢は63点、Brunnstrom Stage(BRS)はVIで粗大運動は保たれていたが、手内在筋はMMT3と低下していた。模写課題では筆圧弱く、字形が傾くなど軌跡操作に困難を認め、実用的な書字には至っていなかった。

【経過】
動作を妨げた要因に、手関節の安定性低下や手内在筋の筋力低下、軌跡操作の見通し困難さがあった。そこで、手関節安定性向上を目的に課題指向型訓練と、手内在筋強化を目的にグリップ練習を実施した。書字訓練では、毎日同じ4文を模写し、筆圧や字形を振り返って口頭で述べ、改善点を考え次の試行で修正するサイクルを導入した。さらに、名前など日常生活に近い課題を設定し、目的意識を明確化した。この成功体験が、動機づけと自発性の向上に繋がった。

【結果】
FMAは63点から65点に軽度改善に留まった一方で、模写課題の所要時間は3分4秒から2分27秒に短縮し、筆圧の安定化や文字形状の改善が顕著に認められた。また、「自分でも書けそう」といった前向きな発言が増え、書字に対する意欲と主体性が高まった。

【考察】
本症例は、rTMSにより上肢機能の基盤的改善を得た一方で、FMA改善は軽度に留まった。しかし、書字の速度や精度、意欲の向上といった行動上の改善は顕著であり、主体的な気づきを伴う問題解決的学習が大きく寄与したと考えられる。単なる反復練習ではなく、背景要因に基づく課題と主体的気づきを促す支援により、慢性期でも実用的行為の改善が可能と示唆された。

【倫理的配慮】
本症例報告は、当院倫理指針に則り、本人に説明と同意を得て実施した。