講演情報
[P4-03]認知機能の曖昧さや精神的な不安定さを伴う立ち上がりが,不安定な左側半側空間無視症例に対し非麻痺側と壁の位置関係を志向することで改善がみられた一症例
*田野 隼都1、沖田 学1,2 (1. 愛宕病院リハビリテーション部、2. 愛宕病院 福島孝德記念脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)
【始めに】
今回,認知機能面および精神的にも不安定な症例が左側半側空間無視(USN)を呈し,立ち上がりに不安定さを認め非麻痺側から身体に志向する介入が奏功した症例を報告する.
【症例紹介】
症例は右後大脳動脈領域に梗塞後左麻痺を呈し精神科病棟に入院していた70歳代女性である.病前より認知機能の曖昧さを認めており,日常生活では雑な指示で混乱し,過呼吸となる精神的な不安定さを認めた.下肢FMAは29点,MMSEは15点,BITは55点であり左側USNを認め頚部は常に右を向く傾向だった.起立の第1相は左足部が内反した状態で開始し,体幹が左側へと偏位した.立位では麻痺側に体幹が偏位するが自覚はなく,修正が困難であった.麻痺側と非麻痺側の身体所有感(SoO),運動主体感(SoA)は7件法にて共に-1(どちらかと言えば感じない)と変質を認めた.自身の手を「姉の手です」と言及するが,下肢に関して「自分のもの」と認識していた.立位時の修正は困難だが,「くにゃくにゃする」と麻痺側下肢の認識が可能であった.
【病態解釈】
本症例は麻痺下肢を「くにゃくにゃする」と言及しており,左側USNを認めるもSoAに関する自覚が可能であった.そこで,立ち上がりを通して麻痺側に志向する目的で非麻痺側と壁の位置関係を志向する問いを行い身体図式の再構築を行った.
【練習と結果】
一回の介入を40分3ヶ月間実施した.教示は可能な限り1文節や模倣で行った.非麻痺側の位置関係の認識課題を骨盤帯を介し行った.3ヶ月後には麻痺側へと拡張し起立前に足部内反位であることや体幹偏位に関する自覚が生じ下肢の認識は「パシッとする」と内省が聞かれ,修正可能となった.SoO,SoAともに1(どちらかと言えば感じる)と改善を認めた.BITは56点で変化は認めないが日常生活では左側に注意が向く頻度が増加した.
【考察】
非麻痺側から身体に志向する介入は,認知機能の曖昧さや精神的な不安定さを伴うUSN患者に有効な関わりとなり得る.認知的負荷の少ない非麻痺側から体幹や環境との位置関係を比較していくことで結果として麻痺側の身体情報の把握ができる可能性がある.それに加え起立前に麻痺側下肢の位置関係に志向する習慣により,感覚統合が促進され身体図式が改善され起立時の偏位の改善に寄与した可能性がある.
【倫理的配慮】
発表に関し個人情報の匿名に留意し同意を得た.
今回,認知機能面および精神的にも不安定な症例が左側半側空間無視(USN)を呈し,立ち上がりに不安定さを認め非麻痺側から身体に志向する介入が奏功した症例を報告する.
【症例紹介】
症例は右後大脳動脈領域に梗塞後左麻痺を呈し精神科病棟に入院していた70歳代女性である.病前より認知機能の曖昧さを認めており,日常生活では雑な指示で混乱し,過呼吸となる精神的な不安定さを認めた.下肢FMAは29点,MMSEは15点,BITは55点であり左側USNを認め頚部は常に右を向く傾向だった.起立の第1相は左足部が内反した状態で開始し,体幹が左側へと偏位した.立位では麻痺側に体幹が偏位するが自覚はなく,修正が困難であった.麻痺側と非麻痺側の身体所有感(SoO),運動主体感(SoA)は7件法にて共に-1(どちらかと言えば感じない)と変質を認めた.自身の手を「姉の手です」と言及するが,下肢に関して「自分のもの」と認識していた.立位時の修正は困難だが,「くにゃくにゃする」と麻痺側下肢の認識が可能であった.
【病態解釈】
本症例は麻痺下肢を「くにゃくにゃする」と言及しており,左側USNを認めるもSoAに関する自覚が可能であった.そこで,立ち上がりを通して麻痺側に志向する目的で非麻痺側と壁の位置関係を志向する問いを行い身体図式の再構築を行った.
【練習と結果】
一回の介入を40分3ヶ月間実施した.教示は可能な限り1文節や模倣で行った.非麻痺側の位置関係の認識課題を骨盤帯を介し行った.3ヶ月後には麻痺側へと拡張し起立前に足部内反位であることや体幹偏位に関する自覚が生じ下肢の認識は「パシッとする」と内省が聞かれ,修正可能となった.SoO,SoAともに1(どちらかと言えば感じる)と改善を認めた.BITは56点で変化は認めないが日常生活では左側に注意が向く頻度が増加した.
【考察】
非麻痺側から身体に志向する介入は,認知機能の曖昧さや精神的な不安定さを伴うUSN患者に有効な関わりとなり得る.認知的負荷の少ない非麻痺側から体幹や環境との位置関係を比較していくことで結果として麻痺側の身体情報の把握ができる可能性がある.それに加え起立前に麻痺側下肢の位置関係に志向する習慣により,感覚統合が促進され身体図式が改善され起立時の偏位の改善に寄与した可能性がある.
【倫理的配慮】
発表に関し個人情報の匿名に留意し同意を得た.
