講演情報

[P4-04]退院後に抑うつと活動範囲狭小化がみられた脳卒中後症例に対する訪問リハビリ
-主観と客観評価の乖離要因に着目した後方視的な検討-

*松川 拓1、石橋 凜太郎1、市村 幸盛1、知花 朝恒2 (1. 村田病院、2. 川口脳神経外科リハビリクリニック)
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【はじめに】
セラピスト(Thr)による評価と患者の自己評価の乖離はリハビリの進捗を妨げる要因となる.特に患者の自己評価が過小な場合,抑うつや不活動を招く可能性がある(Torrisi 2018).本報告では,Thr評価は高水準ながら,無力感と希死念慮を訴え活動範囲が狭小化していた症例について,評価の乖離に影響する要因を後方視的に考察する.

【症例紹介】
症例は左橋出血により右片麻痺(BRS.Ⅳ/Ⅳ/Ⅴ)を呈した60代男性,退院時FIMは運動項目82/91点,認知項目35/35点で,屋外杖歩行自立レベルであった.退院後に「迷惑しかかけていない,死んだ方がマシ」と希死念慮の訴えや活動範囲の狭小化があり,退院2ヶ月後に訪問リハビリを開始した.開始時点で退院時と身体機能の変化はなく,屋外歩行自立レベルとThrは評価したが,屋外歩行は妻の介助下であった.症例に現状生活について問うと,「自信ない」「コケると迷惑がかかる」と自己評価は低く,生活全般における発症前との差異に嘆く発言を認めた.Life Space Assessment(LSA)31/120点,簡易抑うつ病状尺度(QIDS-J)13/27点と生活範囲狭小化と中等度抑うつを認めた.

【治療介入及び結果】
症例の身体機能に比し妻の過介助や病前生活への回帰志向が,否定的な自己認識を助長,Thrの客観的評価と患者の主観的認識に乖離を生じ,生活範囲の狭小化と抑うつが生じたと考えられた.そこで介入として,老研式活動能力指数等を用いIADLに関する行為の認識を共有し,Thrと症例の評価の乖離について相互理解の促進を図った.具体的には清掃関連動作(掃除機や拭き掃除)と屋外移動に関連した動作について難易度を段階付けして提示,実施を促した.4ヶ月後,LSAは77点に,QIDS-Jは3点となり,生活上では自宅内の掃除の習慣化や公共交通機関での外出が確認でき,「一人で買い物行った」「バスで市役所行けた」と介入外での自発的活動を話されていた.

【考察】
Thrの客観的評価と患者の主観的認識の乖離の解消は,生活範囲拡大と点数上の抑うつの改善を促すと考えられた.乖離には,患者の社会的文脈の中に発症前との差異や家族内での過介助など,自己身体や行為に否定的な認識を助長する要素が含まれている可能性が考えられた.

【倫理的配慮】
本人に紙面で説明し,書面にて同意を得た.