講演情報
[P4-05]「いつ」の記憶か分からず不安が生じた症例
−時間的情報を含む記憶を観る−
*藤原 瑶平1、石橋 凜太郎1、市村 幸盛1 (1. 村田病院)
【はじめに】エピソード記憶の想起はいつ・どこで・なにをといった情報を含み、再体験感を伴うことが特徴とされる(Tulving,2005).今回,「いつ」の想起が困難で不安が生じた症例への介入について報告する.【症例】くも膜下出血発症後1ヶ月が経過した50代女性.病変は左前頭葉内側・眼窩・前脳基底部に及んだ.運動麻痺はなく独歩可能であった.神経心理学的所見はWMS-R:言語性106,視覚性102,遅延再生103であり,日々の出来事の「どこで」「なにを」は想起可能であったが,数分前の出来事でも昨日のことと誤認する等,時間判断が困難であった.そのため「いつのことかわからんから実感がなくて不安」と訴え,他者に何度も予定確認を行う場面を認めた.【病態解釈・治療仮説】記憶情報を時間空間的に統合する役割は前頭葉,特に前脳基底部が関与する(Damasioら,2000).症例は前頭葉損傷により,「いつ」を含む時間的情報の統合が困難となったことで,出来事を想起できても「いつ」の記憶か判断がつかず,記憶の実感が伴わないことで不安が生じていると考えた.「いつ」という情報は,場所や人物など出来事の内容そのものに基づいて再構成する(矢野,2010)とされ,「なにを」「どこで」といった想起可能な情報から,「いつ」を含む情報の統合を図り,記憶の実感が伴うよう介入を行った.【訓練】対話を通じて日々の出来事の想起をさせた.その際,1日の出来事をノートに記載し,適宜確認しながら段階的に実施した.また,「いつ」を含む情報の統合を促進するため,様々な物品を隠し,「どこで」「なにを」から「いつ」といった情報へ段階的に想起させた.1人称視点での記憶は3人称視点よりも感情等をより伴う(Berntsen&Rubin,2006)とされており,1人称視点での想起を促し,記憶の鮮明度等を確認しながら1ヶ月間実施した.【結果・考察】神経心理学的所見はWMS-R:言語性111,視覚性114,遅延再生116となった.日々の出来事の時間判断が可能となり,不安の訴えは認めず,他者への依存傾向は消失した.また,時間を含む情報の統合を図る中で,1人称視点での想起が,より感情を含む再体験感を伴う記憶として鮮明となったことで,記憶に対しての実感が生じ,不安の改善に至ったと考える.【倫理的配慮】発表に関し本人に口頭で説明し,同意を得た.
