講演情報

[P4-07]体性感覚情報の変換障害に起因する
        運動イメージの変質を伴う観念運動失行症例

*沖田 学1,2、田島 健太朗1,2、松村 智宏1,2 (1. 愛宕病院 福島孝徳記念脳神経センター ニューロリハビリテーション部門、2. 愛宕病院 リハビリテーション部)
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【はじめに】
 観念運動失行(IMA)の運動学習の困難さ(Mutha,2017)は、体性感覚情報の変換障害(Perfetti,2005)に基づく運動イメージの変質に起因する。しかし、それに基づいた運動療法戦略は未だ確立されていない。本報告では口答指示では歩行改善できなかったIMA症例に対し、認知神経リハビリテーションの理論的枠組みを用いた治療し、改善を得たので報告する。

【症例紹介】
症例は約2ヶ月前に左頭頂側頭葉梗塞を発症し、IMA、伝導性失語、注意障害を呈した約70歳の女性である。右側に運動麻痺はなく軽度の感覚障害のみ認めた。既往歴に右運動野ラクナ梗塞による左下肢軽度運動麻痺があり、荷重制御が困難であった。ADLは歩行自立していた。

【特異的病理と病態解釈】
 失行評価としてDeRenzi 模倣検査50/72点、模倣の失行検査(AST 14点中)右11左8とIMAを認めた。病態の核心を探るため感覚情報変換課題(清水,2009)を実施した。視覚分析の項目はよいが、写真や検者の肢位(視覚)と他動的肢位(体性感覚)の変換の項目の正答率が5割以下であり、特に身体を心的操作(運動イメージ)する矢状面での誤りが顕著であった。非視覚下の両下肢単関節運動の再生は全て正答したが、多関節の系列運動の再生では正答4割で誤りを 認識したが修正できなかった。
これらから、本症例の病態は体性感覚情報に基づく正確な運動イメージの生成障害、特に運動産出における 「感覚情報の変換」プロセス(Perfetti,2005)の破綻が中核にあると解釈した。

【治療課題と経過】
 病態に基づき“体性感覚情報の変換と、それによる運動制御の改善”を目標とした。介入は、①他動運動の変換と産出②骨盤や足底感覚からの姿勢制御③運動イメージを意識した歩行練習を実施した。約4週後では、体性感覚情報の変換正当率は8割以上となった。また、多関節運動再生課題も8割以上正答し、AST右14左10に向上した。10m快適歩行は17.46秒27歩から8.89秒18歩へ改善した。

【考察】
 失行症は体性感覚情報を利用した運動イメージ障害に起因した運動学習過程に問題がある。本症例でも同様の学習過程が破綻していたため、体性感覚情報変換と運動イメージを促通する課題が著効の要因と考えた。

【倫理的配慮】
 発表について症例に紙面で説明し同意を得た。また、個人情報保護を遵守した。